楓 〜ひとつの恋の話〜【短】
「彼と同じ物を」


「はい」


水の入ったグラスを運ぶと、女性は愛らしい笑顔でそう口にした。


程なくして、おじいちゃんが丁寧に淹れたブレンドコーヒーを持って再び二人の元に行くと、正方形の小さなテーブルの上に所狭しとパンフレットが広げられていた。


その色彩や見出しは一つ一つ違うものの、中身はおおよその検討が付く。


「……ご結婚、されるんですか？」


「「え？」」


震えそうな声で思わず訊いてしまっていた私に、パンフレットに夢中だった二人が同時に顔を上げた。


一瞬の間を置いて、柔らかい笑みが二つ向けられる。


「えぇ」


「先日、プロポーズを受けて貰ったんだ」


はにかむ女性と、とても嬉しそうな男性。


あぁ、やっぱり……


入り込む隙は無いとわかっているけど、それでも胸の奥がジクジクと痛んでしまう。


彼らから見れば、まだ高校生の私なんてきっと子どもにしか見えないのだろう。


悔しいけど、自分がこの男性(ﾋﾄ)と釣り合わない事くらいはわかっている。


< 5 / 22 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop