楓 〜ひとつの恋の話〜【短】
「いいのか?」
お客さんが一人もいなくなった店内で、ポツリと呟かれた疑問。
「え?」
思わず小首を傾げると、ソムリエエプロンを外したおじいちゃんがドアの方へと視線を遣った。
「追い掛けなくて」
それがさっきの言葉の続きだというのはすぐにわかったし、そこに暗に込められた意味も理解出来た。
だけど…
「でも……」
追い掛けたところで、私には何も出来ない。
あの男性(ヒト)と出会った時には、彼にはもう大切な女性(ヒト)がいた。
淡い恋心だと決め付けようとした気持ちは次第に大きくなり、とうとう褪せる事の無いまま今日まで来たけど…
相思相愛の彼らを目の当たりにして、この想いを告げる事なんて出来るはずが無い。
そんな事を考える私を余所に、おじいちゃんはまるで美容室で染めたかのように綺麗なグレーの髪を撫で、私の双眸を真っ直ぐ見つめた。
「さて、何を迷う?」
そして、店内を小さく彩るレコードの音楽を掻き消すように、そんな言葉がしっかりと耳に届いた。
お客さんが一人もいなくなった店内で、ポツリと呟かれた疑問。
「え?」
思わず小首を傾げると、ソムリエエプロンを外したおじいちゃんがドアの方へと視線を遣った。
「追い掛けなくて」
それがさっきの言葉の続きだというのはすぐにわかったし、そこに暗に込められた意味も理解出来た。
だけど…
「でも……」
追い掛けたところで、私には何も出来ない。
あの男性(ヒト)と出会った時には、彼にはもう大切な女性(ヒト)がいた。
淡い恋心だと決め付けようとした気持ちは次第に大きくなり、とうとう褪せる事の無いまま今日まで来たけど…
相思相愛の彼らを目の当たりにして、この想いを告げる事なんて出来るはずが無い。
そんな事を考える私を余所に、おじいちゃんはまるで美容室で染めたかのように綺麗なグレーの髪を撫で、私の双眸を真っ直ぐ見つめた。
「さて、何を迷う?」
そして、店内を小さく彩るレコードの音楽を掻き消すように、そんな言葉がしっかりと耳に届いた。