楓 〜ひとつの恋の話〜【短】
何を迷うか、なんて愚問だ。
あの男性を、恋い慕っているけど。
あの女性に、嫉妬や羨望を抱いた事はあるけど。
誰から見てもお互いを想い合っている彼らを、ずっと素敵だと思っていたから…。
好きになればなる程、切なくて切なくて…
いつだって喜びよりも勝っていたその感情に、涙した日もあった。
それでも、愛おしげにお互いを見つめ合う彼らを間近で見る度に、確かに“二人への憧れ”も強くなっていったのだ。
「今日はクリスマスだ」
俯いていた私の頭上から降って来たのは、そんな突拍子も無い言葉。
顔を上げると、髪と同じような色をした鼻の下の髭を二撫でしたおじいちゃんが、お茶目な笑顔を零した。
「だから、恋人のいる相手に自分の気持ちをたった一度告げるくらいなら、サンタが大目に見てくれるさ」
何ともまぁ、気まぐれで店休日を決めるおじいちゃんらしい、大雑把な意見だ。
そんなおまけがある訳が無い。
そう思うけど、次の瞬間には走り出していた私の背中を押すだけの力はあった。
あの男性を、恋い慕っているけど。
あの女性に、嫉妬や羨望を抱いた事はあるけど。
誰から見てもお互いを想い合っている彼らを、ずっと素敵だと思っていたから…。
好きになればなる程、切なくて切なくて…
いつだって喜びよりも勝っていたその感情に、涙した日もあった。
それでも、愛おしげにお互いを見つめ合う彼らを間近で見る度に、確かに“二人への憧れ”も強くなっていったのだ。
「今日はクリスマスだ」
俯いていた私の頭上から降って来たのは、そんな突拍子も無い言葉。
顔を上げると、髪と同じような色をした鼻の下の髭を二撫でしたおじいちゃんが、お茶目な笑顔を零した。
「だから、恋人のいる相手に自分の気持ちをたった一度告げるくらいなら、サンタが大目に見てくれるさ」
何ともまぁ、気まぐれで店休日を決めるおじいちゃんらしい、大雑把な意見だ。
そんなおまけがある訳が無い。
そう思うけど、次の瞬間には走り出していた私の背中を押すだけの力はあった。