猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
瞳の奥
「でも、本当はよく見ればわかるわ。
顔立ちもそうだけどその黒い髪。それにさっき私のこと面白がったあの表情は陽人もよくするから」
そう言いながら一花は蓮の瞳を覗き込んだ。
間近に彼女の顔が来て蓮が面食らっていると、彼女の表情が悲しげに変わった。
「でも……その瞳にあるものは違うみたい」
瞳?!
どういう意味だ?
なぜそんな悲しそうな顔をする?
「俺の瞳に何が見える?」
いぶかしげな表情で答えを待っている彼に、一花は躊躇った。
「それは…、すぐには言えないけれど、でも陽人とは違うわ」
一花には本当は見えていた。
彼の瞳はとても悲しそうだった。
まるで今日の満月のように
輝いているのに寂しげな影が見える。
その影は一花の母性本能に何かを訴えていた。
「なるほど……」
蓮はその答えに納得していなかったが、彼女の表現を面白く思い別の質問をした。
「ならば弟の瞳には何が見える?」
「限りない優しさ、……かな 、陽人の瞳は広くて穏やかな海のようなの」
やはり彼女の言う瞳とはその人間そのもの、そういう意味か。
「俺にはそれはないと?初対面で優しくないと言われてしまうのは心外だな」
自嘲気味に言う蓮に一花は慌てて否定した。
「そうではないの!ただ、その……陽人とはもう長い付き合いなので」
「もしかして?」
「ええ、大切な友人です」
間髪入れずに友人と答えた彼女に、蓮の口の端が上がった。
彼女が陽人のものだとは思いたくない。
そこで彼女に惹かれて始めている自分に気づき内心で驚いた。
「友人ねぇ……まぁいい。
君はいつもそうやって瞳で人を判断するのか?」
「そんな事はないけれど、 外見や肩書きでは判断していないつもりです」
当たり前でしょう?と、よどみない声で話す彼女に蓮の心は大きく揺さぶられた。