猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
一花は身体の力を緩めて瞳を閉じた。
彼の香りの中で胸の鼓動を聞いていると安心して無防備になっていく。
「激しい運動はしないのね」
髪をといていた手が一瞬動きを止めた。
「あっ、……聞かなかったことにして下さい」
ちょっと一花、
あなたこの状況で何を言ってるのよ!
ああもう自分の口を縫い付けたい。
頭上で彼が笑う気配がした。
「確か、こうして欲しいと要求があったな?」
髪をといていた手が顎を持ち上げた。
「そんなあれは……」
恥ずかしくなって瞳を伏せる。
「寝てしまってからでかまわないとか?」
瞳を閉じるように、瞼の上にキスされた。
「早く寝てくれ」
「冗談です」
彼の手を避けて横を向く。
「挑発したのは君だろ?あんな顔で誘って」
すっと腕を撫でられて肌が泡立った。
「あれは、今日の撮影の時に誉められた表情で……」
「結婚式のパンフレットには相応しくないと、真島さんに忠告すべきだな」
「そんな」
「ああいうのは俺だけに見せるべきだろ?」
少なからず妬いてくれているのだとわかって、一花の胸が喜びに膨らんだ。
誰かに独占されて嬉しい気持ちを思い出した。
「蓮さん」
「なんだ?」
思いきって仰ぎ見た彼の表情は和らいでいて、包容力と優しさに溢れている。
この腕の中にずっといたい……
ああ、そうか
私は本当にこの人のことが好きなんだ
一花の心に思ってもみない感情が広がった。
「本気で私が欲しいって思ってますか?」
「聞くまでもないだろ」
「…………じゃあどうぞ」
自分の口からそんな言葉がでるとは夢にも思わなかったけれど、言ってしまうとそれこそが今の私に必要なものだとわかった。
一花は生まれて初めて大胆な行動に出た。