猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
それぞれの動き
黒猫を見つけてから、五日が過ぎた。
今日はオフで、初花はタキさんにことわってお昼まで寝かせてもらっていた。
タキさんはどう思ってるのかしら……
タキさんは優しい祖母のようで好きになっていたので、悪い印象になっているのは悲しい。
初花はあれから蓮の部屋で過ごすようになっている。
あの翌日は仕事から帰ると、私より先に帰っていた彼に連れられてそのまま……
その次の日は撮影が深夜までかかると、スタジオの外で彼は待っていて……
そんな感じで毎朝起きるのは彼の寝室だ。
それにあの日以来、一花ではなく初花として彼と過ごしている。
それは見た目の変化ではないから他人が見てもわからないけど、自分の中では小さな革命が起きているように感じる。
彼の前では遠慮や作り笑いの殻が剥がれ落ちて、子供のように素直になれる。
けれども……
「ちょっと素直になり過ぎているわよ」
口に出して赤くなった。
ベッドの上であんな風に自分が淫らになれるなんて知らなかった。
それに彼は絶対に普通の人間じゃない!
いったい、彼の身体はどうなってるの?
昨夜もあんなに情熱的な夜を過ごしたのに、
いつもと同じ時間に起きて仕事へ行けるなんて……
せめて見送ろうとした初花に『起き上がれるのか?』と聞いた時の彼の顔を思い出してまた頬が熱くなった。
「あー、もぉー」
今の気持ちや状況を誰かに話したい。
こんな風に始めた恋愛がどうなっていくのか、誰かに適切なアドバイスをして欲しい。
私には親友と呼べる女友達がいない。
ううん、過去にそう呼べる友達がいたのにこの世界に入って疎遠になってしまった。
ジェニーや美樹さんとは食事に行ったり買い物に行ったりするけれど、まだ心の中のすべてを打ち明けられる仲にはなれていない。
「マッキーと飲みに行きたいな」
初花は気だるい身体を無理矢理起こし、着替えようと自分の部屋へ戻った。