猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
ローテーブルの上にはあの日並べたままの状態で猫が並んでいる。
あの日から避けるようにしていたけど、だいぶ気持ちが落ち着いてきた。
『捨ててしまえ!』と彼は一度怒りを露にしたけれど、すぐに冷静になって『何か手がかりがあるかも知れないからしばらくそのままにしよう』と言った。
今なら冷静に見られるかも。
初花は少し離れた所から膝を抱えて猫を見た。
ブルーの瞳がくりっとかわいいクリーム色の陶器のコは、この間の特集記事でロンドンに行った時に見つけたものだ。
あのお店にはジェニーとマッキーと美樹さんと行った。他に誰かいたしら?
隣のリモージュボックスの子猫はパリの特集で行った蚤の市で見つけたアンティーク。この時は撮影も兼ねていたからスタッフが何人かいた。
そこでふと気づいた。
黒猫は全部ここ五年以内に行った先のものだ。
いくら欲しくても駆け出しのモデルには買うのにちょっと勇気のいる金額ばかりだもの。
「という事は……」
この五年間で一緒に仕事をしている人の中にストーカーがいる?!
それならば、だいぶ絞られてくる。
専属雑誌のスタッフか今いる事務所のスタッフ……
疑いたくない人達ばかりだけれど、そういう瞳で見たら違う風に見える人が何人かいる。
あのカメラマンのアシスタントさんは、ちょっと馴れ馴れしいなと思う触り方をしてくるのが気になっていたし、編集の松方さんは断ってもしつこく食事に誘ってくる。
待って、そうよ!
何も好意の延長でエスカレートしたとは限らないわ。
専属を辞めさせたい…ううん、それは今となっては年齢的に違うかもだけど、モデルを辞めさせる為にされているんだとしたら?
モデル仲間の誰か?
初花はここ数日、自分がモデルを辞めるという噂や美樹さんの発言を思い出した。
ライバルを蹴落とす為の嫌がらせや、足の引っ張り合いはこれまでも見てきたし、もちろん受けてもきた。
昔はやり返した事だってある。
誰かが私を辞めさせたい?
新しく浮かんだ考えは初花の頭から少しだけ恐怖を取り除いてくれた。
この事は蓮さんに相談してみよう。
それまで何をして過ごそうかと考えて、まだこのお屋敷の探検をしていなかったと気がついた。
陽人から聞いて見たかった庭をゆっくり歩くのもいい。
まずは脇田さんに何か食べさせてもらいながら今夜の食事のメニューについておしゃべりしたら、さっそく異世界へ続くタンスを探そう。
今日の予定が決まると、初花は着替えをする為にお気に入りのクローゼットを開けた。