猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
「何をしてるんだ?」
「ど、どうしてここに?!」
予想外の夫の出現に、美桜はビックリした。
「時間ができたからランチを一緒にしようかと店に寄ったら、今泉さんがいて驚いたなんてもんじゃなかったぞ」
彼の右頬がピクピクしている。
「えっと…他に頼める人がいなくて……」
臨時休業にしようかと思ったら、義父からの届け物を持ってきた秘書の今泉さんに、『代わりに店番をします』って言われて私だって驚いたのよ。
「おまけに若奥様はご実家に帰られるそうです!なんて真面目な顔で言われたら、俺が何かしたのかと慌てて来てみれば」
「やだ、そういう意味じゃなかったのに」
もう、今泉さんまで彼をからかうなんて。
絢士さんは思っていた以上に人望があって、周りの人たちを虜にしている。
「こんなことして、邪悪な兄貴が知ったらカンカンになるぞ!」
ちょっぴり罪悪感でどぎまぎしていた美桜だったが、絢士のその言葉を聞いた途端にふんっと鼻を鳴らした。
「言うつもりなんて、ないくせに」
絢士さんは初めて蓮に挨拶した日の事を未だに根にもっているし、蓮も絢士さんを認めてるくせに、会うとわざと彼を苛立たせるような事を言ってからかう。
美桜からしてみたら単なる兄弟喧嘩なのだが、本人達は表向き相手を嫌っているポーズを崩さず、毎回仲裁する立場にうんざりしている。
「いや、しっかり報告するよ。あの人の困った顔が見られる機会を逃す筈がないだろ」
「絢士さん!!」
心から楽しみにしているその顔に美桜はまたしてもその場で足を踏み鳴らした。