猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
瞳の前で揉め始めた二人に初花は戸惑った。
「あの……」
ハッとした二人のうち、男性、多分彼女の旦那様の方が早く口を開いた。
「すみません、彼女は俺の妻で蓮さんの妹なんだ。変なところ見せて申し訳ない」
妹さん夫婦、写真で見た通りの美男美女だわ。
「いえ。陽人の研究室の写真や下のリビングにある写真で見たのでそうかな、って思っていた所でした」
「ええ!!やだ、もう……」
彼女は驚いて恥ずかしそうにした。
『下手なお芝居をするんじゃなかったわ』ってブツブツ言うのを聞いて初花はホッとした。
麻未が言っていたのはやっぱり嘘だった。
「ごめんなさい。でもわかったわ、変な作戦なんてしないで面と向かって聞けば良かったんだって」
「作戦?」
「嫌な兄妹だろ?俺も初めての時に二番目の兄貴に痛い目にあわされたよ。兄妹を心配するのはわかるけど、牽制するのも大概にして欲しいよ」
「陽人がそんな事を?」
初花は少し驚いた。
冷静沈着で飄々としている陽人でも、妹さんの事になると変わるんだ。
「さっきから思ったんだけど、陽人はあなたとそんなに親しいなんて言ってなかったけれど、二人はどういう関係なのかしら?」
美桜の言葉を聞いて、絢士は初花に向かって両手を上げて呆れたポーズをした。
「君の夫は俺なハズだけど?」
初花はそれに対して苦笑いする。
「陽人は兄と仲が良かったから」
「えっ?!待って。お兄様って高塔臣吾(たかとうしんご)さん?それとも久遠朔也(くどうさくや)さん?」
今度は初花が驚く番だった。
「久遠朔也よ、兄を知っているの?」
「うちの学校で【彦星の君】の朔さまを知らない人はいないわよ」
興奮する美桜に初花は納得して頷いた。
「カトレアね」
兄の朔也は昔、陽人を含めた仲間達との賭けに負けて隣の女子高との親睦会である七夕祭りの催し物 【織姫、彦星コンテスト】に出場したことがある。
何事にも手を抜かない主義の仲間達により、プロを目指す友人によるメイクやどこからか手配された完璧な平安時代の衣装を着させられて、見事に優勝した。
まあ、兄の顔はどちらかと言うと貴族的で和服が似合うとは思っていたけれど、隣のお嬢様学校の生徒からあそこまで人気がでるとは思いもしなかった。