猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆

「ちょっと!本人の居ない所で過去の恋愛を暴露するのはやめてよね!」

三人は同時に後ろを振り返った。

「『ひな!』『日向!』『東堂ヒナタ!さん』」

「はいはい、皆で私の名前を叫ばないで」

サングラスで髪を掻き上げて、日向はジロリと絢士を睨んだ。

「朔也さんが何をしてようが、兄さんには関係ないでしょう」

「いいや、関係あるね。彼は医療関係者?」

初花は迫力ある二人の視線に答えを窮した。
兄は外科医だけれど、言ってはいけない気がする。

「ええっと……」

「やめてよ!まだそんな事を考えているの?ホントにバカ兄貴なんだから」

「なにっ!俺がバカだったらその妹はもっとバカだな」

「はあ?美桜、今からでも遅くないからこんなバカ男とは離婚しなさい」

「ふざけんな。美桜、君が優しいのはわかるが、そろそろ友達は選んだ方がいいぞ?」

「なんですって!」

「あぁもう!!二人ともやめて!」

睨み合う二人に、美桜は今日三度めの足を踏み鳴らした。

「一花さんが珍獣を見る様な顔であなた達を見てるわよ!」

初花はそれどころではない程 驚いていた。

二人が話す【ひなた】がまさかあのスーパーモデルの東堂ヒナタで、しかも!!話の流れからすると兄の昔の彼女がその東堂ヒナタだったなんて!

これで兄と話すべき事が増えたわ。
この事はメモに重要と赤線引かなくちゃ!

あんぐり開けていた口を何とか閉じて、初花は美桜を見た。

「ごめんなさいね、ちょっとした事情があって、この人たち兄妹になってまだ浅いのよ」

ああ!マッキーの噂話で聞いたことがある。
スーパーモデルのヒナタのスキャンダル。
確か父親の東堂コーポレーション社長の30年ぶりに見つかった昔の恋人との間にいた息子。

「いま小学校三年生の辺りだから」

「なるほど」

その頃は私も兄と同じような口喧嘩をしたかもと、初花は納得して頷いた。

「さあ小学生は放っておいて、私たちはじっくり親交を深めましょう。やることがあるのよ」

「やること?」

「陽人から聞いたのよ、私たちには共通の頭痛の種があるって」

「えっ!蓮さんは頭痛の種なんかじゃ……」

「まあ!」

美桜は声を上げて笑いだした。

「彼女、気に入ったわ」

「『私も!』『俺も!』」

日向と絢士にニヤリとされて、初花は頬が赤くなった。

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