猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
『午後の仕事に戻るから』と昼食を一緒に食べた絢士が帰ると、美桜と日向は両側からガッチリ初花の腕を組んで応接室へ連行した。
「あ、あの……」
モデルの憧れ、スーパーモデルの東堂ヒナタに上から下へ値踏みされて初花の心臓が縮み上がった。
外に出掛けるつもりがなかったから、蓮さんの揃えてくれた中にあった小花柄のミニワンピに繊細な刺繍が素敵な緑色のカーディガンを羽織った。足元は白い靴下にルームシューズ。
どこかコーディネートおかしかったかな?
あーもー!
オーディションの時だってこんなに緊張しないわ。
「蓮兄さんの見立ては昔から間違いないのよね」
「そうね、蓮は趣味がいいもの」
二人はうんうんと頷いた。
どうして東堂ヒナタさんが彼を兄さんと呼んで本物の妹さんが呼び捨てなの?
初花は心の中で疑問に思ったが、もしかしてさっき東堂さんに聞いた痛い目の一つなのかなと推測した。
「ねえ、あの緑色のワンピ着てくれた?」
「えっ…あ…」
そういう事だったのか!
クローゼットの洋服が全て【ル・ソレイユ】だったことにようやく納得できた。
初花はホッと息を吐いて、あのワンピを着たときの事を思い出した。
「はい!丈の長さとか揺れる感じとか、着た途端にウキウキして、自分の脚がいつもより綺麗に見えて鏡の前で何回も回っちゃいました。色合いも素敵ですよね!緑は…あっ……」
ニコニコする二人に、はっと我に返った。
初花の頬が赤くなる。
「みお、私この人の事気に入ったわ」
「それ、さっきも聞いたけど」
「何よ、みおはダメだっていうつもり?」
「それは……」
妹さんが手放して賛成してくれるとは思っていない。
逆の立場になればきっと同じ事を思う。
「あの……私、蓮さんの事ちゃんと好きです。蓮さんといると安心してモデルの一花ではなく素の初花でいられるんです。もう何年もこんな気持ちになった事はなくて…それに蓮さんは家族思いの誠実な人だってわかっているから、決して彼を裏切ったり悲しませるような事はしないって約束します」
「ほほうー」
日向がニヤニヤしながら腕を組むと美桜が吹き出した。
「なに、その年寄りみたいな返事」
「突然お家にお邪魔して服とか、お二人に図々しい女だって思われても仕方ないとわかってます。でも事情があってここに居させてもらってます。それが解決したら自分の家に帰りますから、どうか信じてください。彼のステータスには本当に興味ありません」
顔から火が出そうだけど、初花は美桜から視線を反らさなかった。