猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
「ねえ、初花」
焦る初花に、日向が今日出会ってから初めての真剣な顔をした。
「ちょっと気になったんだけど」
「本当に結婚なんてまだ考えてないのよ!」
「違うわよ。仕事のこと悩んでる?」
「それは……」
「次のステップとか考えてるの?」
昨日今日出来た友人に相談する話ではないと思ってすぐに、ついさっき打ち明けた話を思い出して、初花の心の扉が開こうとしている。
「私……」
「蓮兄の大切な人は私にとっても同じよ。麻生家の人達とはずっと家族だし、今日で私たちは友達になったのよね。だから、もしよければ相談に乗りたい」
「日向さん」
「だから、さんは要らないってば」
「うん」
初花の心に澱のように溜まっていた不安が溢れ出した。
「私ね……」
ここはあの人のお墓の前じゃない。
「無理しなくていいよ」
いつまでも立ち止まったままでは何も変わらない
……ううん、変われないんだ。
今朝、誰かに話したい聞いて欲しいって思ったのはこういう事だった。
恋愛のこと、仕事のこと。
気のおけない女友達に聞いて欲しかったんだ。
初花は大きく深呼吸して日向を見た。
「あのね……」
年齢的にもいまの雑誌の専属が厳しくなったこと、
じゃあどうするのか?と聞かれて出せる答えが漠然とすらなかったことを正直に話した。
「なるほどね」
「モデルの仕事は好きよ。洋服やドレスの引き立て役だけど、私が着てその服が輝くのならば光栄だわ」
「でも?」
「うん。でも、似合わない服を着る訳にはいかないし、テレビに出て天気予報を伝えたり、演技をしたりしたいかって言われたら絶対にノーだわ。こんな言い方少し恥ずかしいけど、10年がむしゃらに走ってきて何も残ってない気がするの」
「夢を描く前に仕事に就いてしまったから、立ち止まった時に戸惑ってしまうのよ」
「日向も?」
「私の場合はこれが天職だってすぐに気づいたわ。
パリで初めてのオーディションに挑んだ時にね。この世界が私の世界だって感じたあの時の感覚は今でも忘れない」
「羨ましいわ」
「初花にもそれが何かわかる時がきっと来るわ」
「こんな歳になってしまったのに?」
「年齢なんて関係ないわよ!何かを始めるのに必要なのは勇気と根性!」
「ぷっ」
「なによー」
「その綺麗な顔で根性とか体育会系なこと言わないでよ」
「あら?この世界で生きてきたくせに根性がいらなかったなんて信じられないわ」
「確かに」
「立ち止まって考えるいい機会じゃない」
「そうね」
マッキーにも同じ言葉を言われた。