猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
小さなすれ違い
「社長、30分で御願いします」
秘書の鷹田が念を押すように言って部屋を出ていき、蓮は席を立って彼女の前に腰を下ろした。
「時間が作れず、お呼び立てして申し訳ない」
「いいえ!こちらこそお忙しい所、無理言ってお時間を作って頂き感謝しています」
「それで……瀬川さん、私に話とは?」
蓮は彼女の顔と【モデル事務所 Jolie マネージャー瀬川美樹】と書かれた名刺を交互に見る。
この女性とは一度話をしたいと思っていたので、アポイントの電話を受けて強引に時間を作った。
ディークスの調べである程度はわかってきたが、初花のストーカーに対してずっと嫌な感じが拭えずにいる。この勘が外れる事を祈るばかりだが。
「お分かりかと思いますが、……一花の事です」
瀬川の気まずそうな顔が、意を決した顔に変わった。
「彼女が何か?」
もう周囲にバレているのかと、蓮はあからさまに顔をしかめた。
一体どこからだ?
初花が言うはずがないと思って苦笑いする。
我ながら随分と彼女を信頼しているものだ。
「時間もない事ですし、率直に申し上げます。麻生さん、一花はやめてください」
「スキャンダルになることはない」
どこかの週刊紙に載るにはまだ早い段階だ。
この女性は何を牽制している?
「違います!私は一花のマネージャーですが、彼女の友人としてもここに来ました」
それが演技なのか本心なのか今いち読めなくて、蓮はより注意深く瞳の前の女性を観察した。
「なるほど。それで?」
「遊びでしたら他を当たってください』
「そうでないと言ったら?」
「ご冗談を。三条物産の麻未さんとご婚約が近いそうじゃないですか」
「馬鹿な!それこそ冗談だ」
一体どこからそんな話が出ている?!
大河内のオババか?
自分の知らないところでそんな話が進んでいるとしたら飛んでもないことになる。
早急に手を打つ必要があるな。