猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
「五年前、彼女に何があったんです?」
瀬川は躊躇うことなく話し始めた。
まるでそうすることで、彼女を俺から守れるのだと信じているように。
「結婚の約束をしていた彼が事故で亡くなったんです。幼馴染みだった彼のことは社長も気に入っていたので、結婚するなら祝福するつもりだったと言っていました」
「結婚?!」
蓮は言葉を失った。
「え?瀬川さん?」
瀬川の瞳から涙が溢れだしている。
「すみません…、一花がこの話を打ち明けてくれたくれた時の事を思い出してしまって……一花の切ない泣き顔が……あんなに愛していたというのに。運命は残酷ですね」
「愛していた……」
ガツンと頭を鈍器で殴られたような感覚がして、
蓮はしばし呆然となった。
鼻をすすった瀬川は蓮を見ずに続ける。
「つい先日まで一花は彼の他に愛せる人はできないと言っていましたし、未だに彼の月命日には必ず仕事をオフにてお墓参りに出掛けています」
月命日……あの日か……
言い淀んだお墓の主は身内ではなく、愛していた男のものだったのか。
「そんな一花が別の人を想えるようになったのならば祝福したいと思っています。ですが、傷つくことになったらと思うと社長も私も心配なんです。私達は二度と一花の傷つく姿を見たくありませんから」
「俺は彼女を傷つけるつもりはない!」
「では愛しているんですね」
「愛……」
蓮はかぶりを振った。
「麻生社長?」
「瀬川さん、始まったばかりの関係に愛が存在するとあなたは思いますか?」
言いながら、初花の心に住み着いている男の存在に嫉妬と絶望が綯い交ぜになる。
「私は……それならばまだ遅くはありませんよね?失礼なのは承知で言わせて頂くと、麻生社長と一花に将来があるとは思えません。どうか一花とは、今のうちに終らせてください」
「プライベートを誰かに指示される覚えはない!」
その剣幕に驚いた瀬川は慌てて頭を下げた。
「申し訳ありません」
蓮はハッとしてばつが悪い顔をする。
「ですが、彼女を傷つけるような事はしないと社長さんにお伝えください」
ほんの短い時間、視線を合わせ意思を確認すると、瀬川は視線を外して長いため息を吐き出した。
「わかりました。一花も大人ですしこれ以上の干渉は致しません。ですが、彼女のこれからを潰すような事はしないでくださいね」
蓮は無言で頷いた。