猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
「ごめんなさい」
「なぜ君が謝る?」
「わかってます」
初花はうつむいて、自分で思うよりもずっと落胆している胸の痛みを隠した。
「何をわかってるんだ?」
彼の手が顎に掛かって顔を上げさせる。
初花は伏せていた瞳を開ける前に、気持ちを切り替えた。
「あっ、そうだ!それよりも聞いて下さい」
蓮は彼女の変化に顔をしかめる。
あいつらに何か余計な事を言われたのだろうか?
「初花?」
にこっと笑った顔がまた曇った。
「あいつらに何か言われたなら……」
「違います、黒猫の事です」
「黒猫?」
「はい。全部ここ五年以内のものだと思います」
「五年……」
蓮の顔に影が射す。
この五年、彼女は亡くなった男を愛し続けてきた。
その事と関係があるのだろうか?
「それから」
初花は周囲から仕事の事で色々言われ出した頃から、変なメールが届き始めた事を話す。
「その二つが同じ頃からだとすると同じ人物なのかな、と思うんですが……」
その可能性は高いと蓮も思ったが、それは初花の身近にストーカーがいることを決定づける事にもなるので、軽く頷くだけに留めた。
身近な人間が犯人かも知れないと心を痛めているのに、その傷を更に抉って怖がらせることはない。
「蓮さんもそう思いますよね、でも……」
「ん?」
「実は最近私がモデルを辞めるって噂も出ていて、全部同じ人物の仕業じゃないかと思ったんですが、美桜が違うって断言して」
「ほう……」
美桜がそう言うのなら、別々に考えねばならないな。
妹の勘が外れた事はない。
両親の飛行機事故ですら『行かないで』と当てていたのだから。
「美桜か……随分と親しくなったな」
「え?」
蓮は資料をサイドテーブルに置くと、彼女を押し倒してのしかかった。