猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆

物語は中盤


何事もなくと言ったらそれは違うけれど、相変わらずの日々が続いていたある日、その事件は起きた。

「センパーーイ!大変、大変!」

「ジェニーそんなに慌ててどうしたの? 」

初花は新しく発売されるミネラルウォーターのオーディション結果を聞きに事務所へ来ていた。

「麻未が足を骨折したんだって!」

ジェニーは血相を変えている。

「それがそんなに慌てるほどの事?」

麻未には悪いけどお気の毒程度にしか思えない。

あ、それならしばらく仕事には来られないわよね、
ラッキー!なんて初花は内心で思ってしまった。

「それが、」

はぁはぁと息を整えるジェニーにミネラルウォーターのボトルを渡す。

「はい、落ち着いて」

ごくごくと飲んで『はあー』って息をつくとジェニーの顔が再び驚きと恐怖に歪んだ。

「ヒールが折れて派手に転んだらしいんですけど、たまたまそこにビンとか缶のゴミが散らばっていたらしくて……」

ブルッと震えて顔を押さえるジェニーに瞬時に状況を察した。

「うそっ」

ジェニーが眉毛の上辺りを指差した。

「ココ……深いらしいです」

初花がハッと息を飲むと、ジェニーは抱きついてきた。

「あの人は大嫌いだったけど、モデルとしての意識とかプライドとかは見習おうって思う所もあったから」

感情豊かなジェニーの瞳から涙がこぼれ出す。

「そうね……」

先日マッキーに指摘されて納得したこともあるが、
こうなると同情も手伝って強くそれを感じる。

勝手にライバル視されて迷惑だったけど、ここ数年は彼女なんかに負けるものか!って思うことでモチベーションが上っていたのも事実だ。

それに顔に傷がつくなんて考えただけでも恐ろしいのに

「可哀想……」

可哀想?
今の彼女の気持ちはそんな簡単な言葉じゃ表せない。
だって、
大好きだった仕事を突然奪われてしまったのよ。

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