猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
「離して…ください…」
強く言うつもりの声は、ひどく弱々しくなってしまった。
「離して下さい」
頭が混乱する前にもう一度、今度ははっきりとした声で言うと彼は仕方なさそうに二人の間に距離を取った。
「あの、手も」
蓮は握った手をぎゅっとすると、屈んで耳元に低い声で囁いた。
「誰か君を独占している人はいる?」
もう……
なんて甘い声……
一花が無意識に首を振ると、彼がホッと息ついた
ついさっきまで彼は陽人のお兄さんとしか思っていなかったのに、どうして急にこんな展開に?
戸惑う一花に蓮の優しい声が落ちてくる。
「俺を見て欲しい」
その言葉は一花の心の琴線に触れた。
「何を言って……」
驚いて離れようとすると、また引き寄せられて射るように見つめられる。
やっぱり……
この人の瞳の奥なんて悲しい色をしているのかしら
逸らす事が出来ずに彼の瞳を見つめ返したが、
そうすると胸の奥がざわざわして不安になり
一花はそれを押し込めるようにぎゅっと瞳を閉じた。
これってどういう事なの?
頭と心が混乱しているのが自分でわかる
私と恋愛をしようってこと?
『イチー』
一花を呼ぶ懐かしい彼の顔が脳裏に浮かんできた
あれから本気で誰かを好きになった事はない
漠然とだけど、このままずっと誰も愛さずに独りを通そうとは思ってなかった。
でもそれは新しい関係を始めたい人と出会わなかったからだけ……
……ではないか。
知らずと恋愛を遠ざけていたのかも知れない
「わたし……」
言いかけた一花の言葉は背後からの声に遮られた。