猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆

「靴は前日に買ったばかりだったのに……ちょうど近くの自動販売機のごみ箱が倒されていて、缶とかペットボトルが散らかっていたの」

「誰も片付けてなかったの?」

「ううん、掃除のおじさんが拾い始めていたわ」

「じゃあ避けられなかったの?」

初花は缶かペットボトルに躓いて折れたのかと思ったので、そう問いかけると麻未の瞳が大きく揺れた。

「警察にも話したんだけど、誰かに押されたような気がして……」

「『うそっ!』『まあっ!』」

驚く私達に麻未は涙ぐんで続けた。

「でも実際はヒールが折れてたんです」

「思い出したくないことを聞いてしまって、ごめんなさいね」

零華さんと呼ばれた女性が麻未の手を握った。

「いいんです……でも……」

「大丈夫ですよ、傷は深くないって聞きましたし、あの子も今日お見舞いに来させますから」

「本当に?」

「さっき電話をしましたからね」

何だか身内の話になってきたので、初花は二人に声をかけた。

「私はこれで……」

元々長居するつもりはなかったので、二人に軽く頭を下げた。

「あら、よろしいの?」

「いいんですよぉ、彼女は単なる仕事仲間なので気にしないで下さい」

ええ、ええ。
そうですよ、単なる仕事仲間。
お互いそれ以上にはなりたくないです。

「はい」

初花は笑顔で答えて『お大事に』と、静かに病室を出た。

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