猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
「乾杯って訳にはいかないですね」
雅人くんがウーロン茶を掲げて美樹さんを見た。
「そうね、お疲れさまってことで」
美樹さんがグラスを掲げると、私もマッキーも同じようにグラスを掲げるだけにした。
「そういえば、美樹さんジェニーに付いていかなかったんですね」
「うん、社長が子守りしろって」
「子守り?」
「新人ちゃんよ」
そうだ、昨日一人入ってきてた子がいた。
ピカピカのお肌を見れば十代だってわかったけど、年を聞いて小学六年生だと言われた時にはその大人っぽさによろけそうになるほど驚いた。
「私の娘って言ってもおかしくない年の子だった」
「ヤだわ、初花ちゃん現実をみせないでよ!それよりもマッキーどう?あの話考えてくれた?」
美樹さんの問いかけにマッキーが渋い顔をする。
「あたしはいいわよ」
「え?何の話?」
「夕日テレビさんがお昼の情報番組で、素人さんを変身させるコーナーのメイクさんを探してるのよ」
「いい話じゃないですか!」
食いつく雅人くんのおでこをペチって叩いてマッキーはジョッキを煽った。
「世間はもうこういうのお腹いっぱいよ」
「そんなことないって。マッキーテレビ映えすると思うよ」
『どういう意味よ!』って美樹さんじゃなくて雅人くんを叩いてからマッキーは首を振った。
「ありがたいけど、テレビはいいわ」
「どうして?」
「どうしても、よ」
マッキーのお家は地方の地主さんだって聞いたことがある。お母さんはマッキーを受け入れてるって聞いたけどやっぱり家族の事を気にしているのかな。
「マッキーの恩恵は簡単には世間に出せないわ、まだまだ私達だけのマッキーよっ」
初花がわざとおどけて言うと、マッキーがちょっとだけ顔を歪めてから初花のグラスとジョッキをコツンと合わせた。
「まったくマッキーといい一花ちゃんといい、他の人なら喜んで飛び付く話なのに」
「あたしはいいとしても、一花あんたはこの先どうするか考えたの?」
「えっ?!引退の噂は本当なんですか?!」
雅人くんのひどく驚いた顔に苦笑いする。
「みんなで私を追い込まないでよ」
って笑い飛ばそうとしたのに……
「あのね、一花ちゃん……」
言い出しにくそうな美樹さんの顔を見て全てを悟ってしまった。