猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
近い将来こうなるってわかっていたのに、いざ現実を目の前にすると、馬鹿みたいに何も考えられなくなる。
「一花さんならすぐに次が見つかりますよ」
雅人くんの励ましが傷口に塩を塗る。
そう、何かは見つかるかも知れない
でもそれでいいの?
医者になることから逃げるためにこの世界を選んだあの頃に戻った気分だ。
「あんたの人生はあんたのもの」
マッキーに焼き鳥のハツを渡される。
苦手なのに『ほらっ』ってうなずいて押し付けられて気がついた。
ハツ……心?
あ、久遠初花の人生って意味か。
周りに決められたレールから外れて、自分がどうしたいか本気で考える時だって言いたいのね。
「わかってるって、大悟くん」
「ちょっとあんた!本名で呼ばないでよ!!」
「えっ!マッキー大悟って言うの?!」
ホロ酔いの美樹さんがゲラゲラ笑い出すと、こらえていた雅人くんも吹き出して笑い出した。
「二人とも誰かに言ったらお仕置きよ!」
「キャー怖いー」
「言いませんから」
いい感じに酔っ払っていく二人とは違い、初花の頭の中はいろんな事がぐるぐるして、考えれば考えるほど不安になっていく。
『いつでも帰ってきなさい』
今日の母の顔が浮かんできた。
あり得ない、と首を振る。
今さらあの家に帰ってどうするのよ。
そう思った時に初花の脳裏にあの白猫の絵が浮かんだ。
「よーし!今日は飲むわよ!」
不安を吹き飛ばすように初花はグラスを一気に煽った。
「雅人くん、おかわり!」
「い、一花さん?」
「あたしもー」
マッキーもジョッキを飲み干す。
「よしっ!皆で酔っ払いになろう!」
美樹さんが雅人くんにも『飲め!』と迫ったり、
『大悟におかわり!』と言ってマッキーに怒鳴られたりするのを笑いながら、その夜は楽しい時間を過ごした。
…………はずだった。