猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
「初花、話がある」
「ストーカーのこと?何かわかったんですか?!」
「まあ…それもあるが、別の事だ」
「それもあるがって、犯人がわかったんですね!」
それならば直ぐに教えて欲しい。
「今じゃダメですか?」
「急ぎの報告はないから心配するな」
「でも……」
逸る気持ちを訴えるように彼を仰ぎ見ると、
愛しげに頬を撫でられる。
「昨夜の言葉は酔っぱらって出た本音だと思っているからな」
え?本音?!
「わたし何を?」
「俺について色々と?」
くくっと笑われて穴があったら入りたい気持ちになる。
やだ、もう!信じられない!
絶対に恥ずかしい事だ。
両手で真っ赤になる顔を隠した。
「初花」
顔を隠す手の甲と頭の天辺に柔らかい感触が落とされて、優しく腕に閉じ込められた。
「蓮さん?」
なんだか様子が変……
身じろぎするとそれを封じられる。
「自分の納得いく人生を選べ」
「え……」
私、酔っぱらって何を言ったのよ!
「あの……わたし…」
「過去は忘れてくれないか」
「過去?」
ぎゅっと抱きしめる腕に力がこめられた。
「俺が側にいるから……」
彼らしくない切ない囁きに、なぜだか胸が締め付けられて腰に手を回して頷いた。
あなたが望むのなら忘れるわ。
「今日は早く帰る、ゆっくり話をしよう」
名残惜しそうに初花を離して蓮は上着を羽織った。
「わかった、待ってます」
出て行こうとした足を止めて、振り返る彼の表情がふっと緩んだ。
「勿論さっきの続きもするからな」
「続き?」
「仕返しだ」
いつもの蓮の笑みに初花はほっとする。
今朝の彼は初めて会ったときのように瞳の奥に寂しげな影が見えていたんだもの。
「覚悟しとけ」
楽しそうに笑う彼に『しません!』って叫んで顔をしかめる。
「いたっ…本当に頭が痛い……」
再びこめかみを押さえると大股で戻ってきた彼が優しく額にキスを落とした。
「その痛みは俺には治せないんだ、次からはあまり飲みすぎるんじゃないぞ」
極上の甘い囁きに、痛みどころか身体から力が抜けていく。
「迷惑をかけてごめんない」
「いいや、意外と楽しかったぞ」
笑って頬に口づけて『じゃあ今夜』と部屋を出ていく蓮の後ろ姿を見送りながら、初花は抑えることが出来ないほど彼を好きになっている自分に気づいて泣き出しそうになった。