猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
岐路
「いーちかー生きてるー?」
タキさんにもらった頭痛薬と脇田さんの特性スープで何とか生き返ったダイニングに日向がやってきた。
「かろうじて」
「ねー昨日の事覚えてる?」
初花は重たい頭を振った。
「日向に聞くべきか悩んでいたところ」
「サイコー」
日向が楽しそうにキャハって笑うのがイメージと違い過ぎるし、その顔を見ればとんでもない事をしてしまったのだと想像できた。
「どれから聞きたい?」
どれって事は一つじゃない。
それは正に恐怖の入口。
「とりあえず一番最悪な事をお願いします」
悪いことと良いこと、どっちから聞きたいか?と問われると、初花はいつも悪いことから聞くようにしている。
「一番最悪か、それって初花にとって?それとも蓮兄にとって?」
初花は信じられないものを見る瞳で日向を見た。
「お願い!私をどこか遠くの山に埋めて二度と戻って来られないようにして!!」
「ごめん、ごめん。全く覚えてないのね?」
そう言う日向の肩が揺れている。
「仕事仲間と和風居酒屋で飲んで、その建物のカラオケに行った所までは思い出したんだけど…」
「やっぱり同じ雑居ビルにいたのね、ちょうどその続きよ、私が会ったのは」
*****
「一花さん、今日は飲み過ぎですよ」
「そんな事ないわよ」
カラオケ店から出た所で、初花たちはすっかり出来上がっていた。
「雅人くーん、気持ち悪い」
「えっ?美樹さん、大丈夫ですか?」
「うっそっー」
「みなさん!タクシー来ましたよ」
「えーもう一軒行こう!」
「はいはい、マッキーさんとりあえず乗ってください!」
「あれ?初花?」
デザイン事務所のスタッフとジンギスカンの店で食事をした日向は、皆が上階にあるカラオケに行くのを断ってタクシー通りに出るとそこに初花がいた。
「あれれ?日向?こんな所でどうしたの?」
「やだ面白い!酔っ払ってるのね」
「私はあの二人ほど酔ってないわよ」
見た所、一緒にいる三人は悪人には見えないけれど。
日向は暗がりに瞳を凝らしてSPを探した。
蓮兄がこの状況で付けない訳がない。
「ねえ、送っていくわ。一緒に帰りましょう」
SPらしき人物は見えたけど、万が一があってはいけないし、なによりこの初花を連れ帰り蓮兄に貸しを作るのは楽しそうだ。
「いいわよ」
「一花さんも乗ってください…って、え?!もしかして東堂ヒナタ?!…あっ、さんですよね?」
「そうよ。あなた大変そうね」
「いつものことです……あ、いえ!あの、一花さんとお知り合いなんですか?」
「うん、だからこの人は私が送っていくわ」
「ごめんね、雅人くん。あの二人お願いできる?」
「それは、はい」
*****
「待って、それ何時のこと?」
この部分の記憶がないって事は相当酔っていた事は確かだ。カラオケでどれだけ飲んだのかも覚えてない。
雅人くんに悪いことしちゃったな。
「酔ってないって言ってたけど?」
「えっと……」
「続き聞く?」
「聞きます」
初花は渋い顔をしながらうなずいた。