猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
*****

麻生邸に着くと日向は初花より先に車から降りて、出てきたタキさんに心配ないから下がってもらうようお願いした。

美桜に確認してもらったから、蓮兄が帰っているのは承知している。
もちろん、こんな面白いこと美桜と共有しないわけがない。逆に黙っているのを見つかったら大変な事になる。

「着いたわよ、初花、降りられる?」

「うん、大丈夫よー」

そう言いながらもフラフラしている初花を見て、日向は肩を貸して屋敷内に入った。

「蓮兄、いるんでしょ!」

日向の呼び掛けに書斎から出てきた蓮が、初花を見て驚いてかけてきた。

「どうしたんだ?」

自分から奪うように初花を抱き留める蓮に、日向は内心ワクワクした。

「あれれ?蓮さん、お帰りなさい」

「酔ってるのか?!」

「ん?帰ってきたのは私か!」

驚き焦っている蓮を見て、日向はどうにか真顔を作ったが、きっと変な顔になっていたと思う。

「見つけた時にはこの状態だったわ。危なっかしいから連れて帰ってきたの」

「そうか、すまなかった、誰と飲んでたんだ?」

「男がいたわよ」

「なにっ?」

蓮の予想通りの反応に、日向はいよいよ笑いを堪えるのに必死になる。

「男なんていないわよ、あ、ここにイケメンがいるけど、ね?」

蓮を見上げて初花はにっこり笑った。

「ぶっ、あーもーダメっ!アハハハ」

蓮のなんとも言えない表情をみて、日向は堪えきれず爆笑した。


*****

「い、いやーー」

『ね?』っていうバカみたいな言い方をした日向の口まねに、初花は椅子から降りて頭を抱えうずくまった。

「あら、可愛かったのよ」

「やめて」

「初花、まだ序盤だけど?」

今日の私は女優だわ、と日向はここで初花の為に笑わないでいる自分を褒めた。

「もっとひどい事が?」

「止めておく?」

止めたいどころか、これ以上聞きたくないに決まってる。決まっているけど……初花は恐る恐る顔を上げた。

「次は終盤よね」

「んー序盤の次は中盤だと思うけど?」

「中盤……」

地獄だわ、なにもかも、私の人生地獄の真っ只中よ

「聞かせて下さい」

初花は正座した。
大人なんだから、自分のした事の責任は取らないと。

「わかった。じゃあ初花、着替えてきて」

「へ?」

「続きは着替えてから。悪いんだけどソレイユの緑色のワンピにミモザのカーディガン合わせて靴は白ね」

日向が言うのがどれかは直ぐにわかった。
ワンピは蓮さんが選んでくれた初花のお気に入りだ。

「どこか行くの?……嘘っ!もしかして謝りに行かなくちゃいけないところがあるの?!」

「いいから早く!!」

急き立てられて、初花はわけのわからないまま指定された服に着替えると、日向の車に乗せられた。

< 145 / 159 >

この作品をシェア

pagetop