猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
はじめ驚いていた麻未の顔は状況を理解するにつれ怒りの表情に変わった。
「蓮さん!!その方は?!」
「大切な人です」
間髪入れずに答えた蓮にびっくりして一花が顔をあげようとすると、頭を押さえられて髪に口づけられた。
その親密なしぐさは功を奏した。
「だ、だって…蓮さんには……」
麻未がアワアワしているのは見なくてもわかる
「この事はまだ誰にも話していないんです。ただ最初にお話したと思いますが 、今日三条さんとお会いすることは知りませんでしたので」
「でもっ!!」
この状況でも食い下がろうとする麻未に蓮はとどめをさした。
「今日のことは単なる形式上の軽いものかと思っていたんですが、」
一旦言葉を切って、蓮は困ったような申し訳ないような顔をしてみせる。
「今すぐこの事をお父様のところへ行き、お話した方がいいですか?」
蓮は瞳の動きで室内の人の多さを、そして恥をかくのは誰なのかを訴えた。
その意図に気づいた麻未はうろたえた。
こんな場所で自分が振られたと騒がれるわけにはいかない。
「そ、それは……まさか、そうですよぉ、正式なものなんて思ってないですってぇ」
「そうですよね、三条さんの様な方ならこんな不意打ちのような事は日常茶飯事なのでしょう?」
蓮は怖いほど優しい声で追い討ちをかけた。
「ええ、もちろんですぅ」
「ああ良かった、心配することなんて何もなかったよ」
蓮はわざとらしく腕の中の一花に向ってそう言ってから、彼特有の甘い笑顔を麻未に向ける。
案の定、彼女は何か言う前にすべての言葉を呑み込んでしまった。
この辺りで一花は思考がクリアになってくるのと同時に沸々と怒りが沸いてきていた。
「はあ~」
麻未は大袈裟にため息をついた。
「その腕の中の方のお顔を見せてはくれないんですね」
びくっと一花が身を固くする。
「ええ、まだ公にしたくないですし、恥ずかしがり屋なもので。あんな場面を見られては、ね?」
「うぐっ」
蓮の腕の中で蛙を踏み潰したような呻き声がする。
「あら?そのドレス……どこかで見たことがあるような……」
なおも食い下がろうとする麻未に蓮は留めのようにとびきりの笑顔を作った
「それに貴女のような方を見せては……」
「やだぁ」
策は講じて、麻未の頬が赤らんだ。
いい加減にして!!
一花は我慢の限界だった。
彼は言外に私が彼女を見て嫉妬すると言っているのだ。
こんなことはあってはならない!
この腕を振り払って、この人とは何の関係もないと言ってやる!
腕の中でもがく彼女を蓮はきつく抱きしめる事で封じると、力では適わないと悟った一花がヒールを有効活用した。
「痛っ」
「蓮さん?」
「何でもないです!どうかお父様によろしくお伝えください」
「わかりましたよぉ、父には私から話しておきますからぁ。でも、これは借りですからねっ!」
「ありがとうございます」
もう二度とお会いすることはないと思いますが、
とは口に出さず蓮は軽く頭を下げた。
麻未は腕の中の彼女を見ながらまだ何か言いたそうにしていたが、蓮の笑顔に負けて渋々テラスをあとにした。