猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
「美桜、まだ食べるの?」

売り物かと思ったレースの縁取り飾りがきれいな銀器に並べられたクッキー。
美桜が手に取ったのは三枚目だ。

「このクッキー中毒性があるのよ」

「最近よく食べるって兄さん言ってたわよ」

「やだ、絢士さんが?太ったって言ってた?」

「知らないわよ、バカ兄貴はどうせ『どんな美桜も好きだよ』って言うじゃない」

日向はオエっと舌を出す。

「あと二枚、食べようかしら?」

「私たちを前にして遠慮するとかないの?ねえ!」

初花は自分もあと一枚と伸ばした手を引っ込めた。

「ところで日向、そろそろ終盤の話を聞かせてもらいたいんだけど……」

ここまできたらもう最後はどうにでもなれ!の心境だ。覚悟は出来ている。

「ああ、終盤は知らないわ」

「は?だって日向が終盤があるって言ったのよ?」

「あるわよ、終盤は。でもね、プライベートを尊重したの。これでも私、良識はちゃんと備わっているつもりよ」

「何を言って……」

「蓮に抱きかかえられた所で、部屋まで付いていくの止めてたんですって」

「抱きかかえ?!」

美桜の瞳がキラキラしていて、その瞳を見れば言いたい事はわかった。

「しっかり蓮兄の首に腕を回してたわよ」

ニヤッとした口がスーパーモデルらしからぬ日向の顔を見て、初花は火が出そうなほど顔が熱くなった。

「えー見たかったな」

「見なくていいわよ!」

「ああ!確かその時にせなくんがいつもと違うから安心してって言ってたのよとか…、せなって星夏のこと?あっ、あと家族の一員がどうとか……」

「ストーーップ!!わかったから!!わかったのでもうやめて!」

今朝の蓮さんの話がやっと見えてきた。

日向に連れられ家を出てからまだ二時間位しか経ってないのに、初花はもうぐったりしていた。

今夜 蓮さんと話す時まで生きていられるかしら……


ところがその日、蓮は急な会食が入ってしまい帰宅が遅くなったので話は出来なかった。


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