猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆

「ごめんなさい、大丈夫ですか?」

星夏が零華の座っていた椅子に移動して声をかけると、初花は瞳を白黒させている。

え?待って!いつの間に世界線が変わったの?
違う?!私どこからかタイムリープした?
え、え?!これって戻れないの?

「ワッハハハッ」

「えっ!あ、星夏くん」

「ねー待って、初花さんマジで面白いんだけど」

「私また声に……」

「大丈夫。ここは日本で今日は午後からトップCARっていう雑誌の対談を俺と上の客室でして、さっき駐車場とあそこの庭で撮影もした」

「うん、そうよね」

トップCARは初花が専属モデルを務める雑誌と同じ出版社から出ている車の専門誌。
最初この話を持ってきた美樹さんは『いま注目の若手レーサーなのよ!』と驚いて星夏くんとの関係を執拗に聞いてきた。

「レーサー以外で誰か対談したい人はいないか?って聞かれて蓮さんは忙しいし、困ってたら、たまたまそこに初花さんの雑誌があったんだ」

彼からの指名だと聞いた時は初花も驚いた。
美樹さんには『知らない』で通したけれど。

余計な事は話さない、蓮さんとの約束だ。

「私、今月号の表紙じゃないのに」

「うん、だから良かったんだよ。パラパラって捲ってこの人!って言ったんだ」

星夏は笑ってその時の状況を説明した。
その事は対談の時にもネタの一つになった。

本当は表紙に一花の名前を見つけたから、
意図的に彼女のページを開いた事は内緒だ。

「おばさんの事は謝ります。ごめんなさい」

「いいの、平気よ。
でもなんか私には理解出来ない日本語だったから」

「うん、そうだよね。何でも聞いて」

何でもって言われても……

「それじゃあ、一番パワーワードだった悪しき血?」

「だよね、ハハッ」

星夏くんは乾いた笑いをした後、手を上げて炭酸を注文した。

「信じる、信じないは一旦端に置いて聞いて」

「わかった」

星夏はふぅと息を整え、居ずまいを正した。

「大河内家というのは古くは平安時代の宮家に繋がる家柄とかで家系には天皇の兄弟にあたる人物に嫁いだ人もいるとか巫女や陰陽師なんかの神事に係わる大役を務めてきたらしい……、ううん、務めてきたんだ」

何か言おうとする初花に星夏はストップと手の平を向けると、『失礼します』と置かれたコーラを一口飲んで短く息をついた。

「これは本当に信じられないと思うけど、初代の当主が魔物を退治した褒美として、神に子孫の繁栄を願ったんだ。それが大河内の血が流れし者は家系の血筋が清き者としか交わるべからずっていうお告げで、我が家の掟になるんだ」

「いやいやいや、掟って……」

苦笑いする星夏くんの瞳が悲しげに見えて、初花は慌てて謝った。

「ごめんなさい」

「清き血筋は幸福を、悪しき血筋は恐ろしい不幸を。そんな事は実際に起きても、偶然だと片付けられるかも知れない。だけどこれについての具体的な話はいくらでもあるから、本当に知りたいなら資料であげる」

星夏くんの真剣な眼差しに、初花は信じられない気持ちを飲み込むしかなかった。

「嘘を言ってるとは思わないけど、星夏くんも掟を信じてるのね」

「うん、俺がそれを信じる事の一つに清き血筋にお金は関係ないから、なんだ」

「お金?」

「うん、お金持ちじゃなくてもいいんだ。それってさ、簡単に言うと悪い事をした人はダメって事だって俺は思うんだ。まあそれなら受け入れられるよね」

「なるほど……あれ?ちょっと待って」

初花はここに来てようやく気づいた。
この話に蓮さんはどう関係してるの??




< 153 / 159 >

この作品をシェア

pagetop