猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
そんな初花の顔を見て、星夏はニヤッと笑ってうなずいた。
「気づいた?」
「うん、蓮さんは大河内さんじゃないよね?」
「そう、でも蓮さんの亡くなったお母さんは零華おばさんの妹なんだ」
「ん?だとしても……」
「さっきも言ったけど、大河内家が大事にしてるのは血筋だから。それに蓮さんはね、生まれる前から特別だったんだって。大河内家の今の宮司さんは歴代の中でもずば抜けて予言が当たる人で、その宮司さんが修行を終えたばかりで視たのが生まれる前の蓮さんでさ、」
そこで言葉を切った彼の瞳がキラッと光ったように見えて、初花は思わず息をのんだ。
「生まれて来る時に何を持っているのかを視てもらうんだけど、眩しい光の中にいた蓮さんは神の恩恵を受けた偉才だって言われたんだ。だから、大河内家では蓮さんを養子に欲しがって大変だったらしい。
特に長女の零華おばさま夫婦には子供がいないから、今でも諦めていないと思う」
だから『蓮さん』なのか……
「宮司さんが蓮さんを尊ぶから総代は蓮さんだし、おばさまも蓮さんには強く言えないんだ。
ちなみに俺は宮司に『速さを操る事が出来る』って言われたんだ、ね?その通りでしょ?」
彼はおどけてハンドルを握る仕草をしてから、残りのコーラを飲み干した。
「私は白猫って言ってたけど……」
「へえ!初花さんといると縁起がいいんだ!」
「そう言う意味なの?」
初花は壮大な小説を読み終わった後のような、どこか現実とは違う場所にいてまだ戻って来られない、そんなふわふわした気分になっていた。
「私どうしたらいい?」
「さっきおばさんも言ってたけど、初花さんは清き血筋だから問題ないよ。だからおばさまは話を早く進めたくて今日ここに来たんだ」
へえ!そうなんだ!と素直に喜べる訳がない。
「そうじゃなくて……」
只でさえASOの社長という彼の肩書きに、ものすごいものが足されてしまって余計に気おくれする。
「心配ないって」
心配?それは違う。
私たちは結婚とか、そこまでの関係じゃないもの。
じゃあこのままそばにいていいの?
明るい星夏とは対照的に、初花は胸に立ち込めた不安が広がって行くのを感じていた。