猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
その夜、食事を終えた初花と蓮は応接室で話し合いに臨んだ。
「今日のことは星夏から聞いた。すまなかった、伯母の言ったことは気にしなくていいから」
「はい……」
気にしなくていいって言うのは、結婚の話はないって事だよね。
沈んだ表情の初花を見て蓮は眉根を寄せた。
星夏は何も言っていなかったが、オババは傷つけるような事を言ったのだろうか
「何か嫌な事を言われたか?」
初花は『いいえ』と首を振った。
「星夏くんの話…、大河内家のお話が私にとって現実的じゃなかったので少し驚いただけです」
「そうか、信じられないか?」
星夏から聞いていたが、彼女の反応は当然だと思う
普通の人からしたら、宮司のお告げなど冗談みたいな話だろう。
だが、今回はその宮司に救われた。
初花を見た宮司のお陰で、三条の我が儘姫から解放される事になったのだから。
「全てを信じましたとは言えないけれど…、蓮さんの事は信じています」
「それで十分だ」
それ以上の何を望むという
例え彼女が悪しき血筋だとしても、彼女の中には間違いなくダイヤモンドが入っている
「あの!それよりも」
「ん?」
「酔っ払って言った事は覚えていないので、なかった事にして下さい」
「酔っ払って言ったこと?」
「蓮さん!」
わかっていてとぼける蓮に初花は頬を膨らませた。
「せっかくの初花の愛の告白をなかったことにはしたくないんだが?」
「愛の告白って……」
「俺の家族の一員になりたいって言うのは、間違いなくプロポーズだろ?」
プロポーズ?!
私が結婚を望んだらそんな顔で喜んでくれるの?
「それは多分…、美桜や日向とって意味です」
苦しい言い訳なのはわかっているが、
もし結婚があるとしてもまだ先の話……
「初花」
「はい」
「星夏が言ったのは本当だ、俺は本気だ」
「……本気ですか?」
本気って結婚に対して?
えっ?!待って!結婚て……
私さっきから何を思ってるの?!
初花はこればかりは声に出したらダメだと、口をきつく結んだ。
「ああ、だから初花も正直に教えて欲しい……」
「はい」
蓮が珍しくすぐに言い出さず躊躇っているのを見て、
初花は自分が何か悪い事をしたのかと不安になった。
「何をですか?」
意を決した彼が真っ直ぐ初花を見た。
「五年前愛していた男のことだ」
「えっ」
「結婚の約束をしていたんだろ?」
「どうしてそれを……」
どうして蓮さんがあの人の事を知っているの?
まして結婚の話まで……
墓地で会った時同様、どういったらいいのか言葉が見つからない
自分の気持ちはこの五年、時間が解決してくれたと思う、確かにあの人との日々は愛しいものだけれど……
愛していた……
「彼とは……」
初花が何か言おうとすると、ノック音がして扉を開けずにタキさんが来客を知らせてきた。
「若様、お客様がお見えです」
「ああ、来たか。ここへ通してくれ」
「お仕事の方でしたら…」
「いや、違う。初花 これから来る人との話しに驚くなというのは無理だろうが、出来るだけ冷静にな」
「それはどういう…、あっまさか!…えっ?!」
タキに案内されて来た人物を見て初花はびっくりして言葉が続かなかった。