猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
「失礼します、え?初花ちゃん?」
初花と同じく彼女も驚いている。
「瀬川さん、どうぞこちらへ」
「美樹さんがどうして?」
「俺がお呼びしたんだ」
初花が瞳で蓮に問いかけると彼は小さく首を振った。
蓮の表情からは嫌な予感しかない
犯人がわかったって言ってたのは……
まさか、違うよね?
初花は不安で苦しくなる胸を押さえた。
「これはどういうお話でしょうか?」
美樹の声色は少し不機嫌だ
「瀬川さん、 回りくどいのは苦手なので単刀直入にお聞きします」
蓮が初花を見てうなずいた。
嘘よ、そんなはずない!
やめて、お願い!
「なんでしょう?」
「初花に嫌がらせのメールを送っているのは、何故ですか?」
「嘘よ!違う!美樹さんじゃない、そうでしょ?!」
「初花、落ち着くんだ」
落ち着けるはずがない!
蓮の言う事があり得なさすぎて平静を失いそうだ。
「なぜ私だと?もちろんこうして初花を前にして言われるからには証拠をお持ちでしょうが、誤解かも知れませんし……」
初花とは反対に美樹は冷静に見える
「そうよ、絶対に蓮さんの誤解です」
必死に動揺を隠そうとする初花に、蓮の胸は痛み彼女を同席させた事を後悔した。
「私を疑った理由をお聞きしても?」
「それは警察に行けば簡単にわかった事です」
「は?」
「届けてませんよね、ストーカー被害」
「そんなはずないです!私、美樹さんと一緒に行きましたし、警察官の前で書類にサインしました!」
立ち上がって抗議する初花を落ち着かせるように、蓮は『わかってる』と彼女の背中を擦って宥める。
「じゃあどうして?」
「その警察官は瀬川さんの幼なじみなんだ」
「え?」
「小さい頃から彼の面倒を見てきたあなたは彼にとっては実の姉同然で、その姉の頼みを聞いて彼は被害届けを受理しなかった」
「私が頼んだと彼が言ったのですか?」
「いいえ」
ディークスの調べではその警察官はすでに別の署に移動していた。
「それではその警察官が勝手にやったのかも知れませんよね。もしかしたらその警察官こそストーカーかも知れないのに、どうして私だと?」
この期に及んで罪の擦り付けをしようとする彼女に、
蓮はあからさまな嫌悪を抱いた。
「瀬川さん、初花をこれ以上悲しませたくないので素直に認めてもらえませんか」
証拠はまだある。
ディークスがその伝で発信元を突き止めたのだから。
だが、これ以上初花に辛い想いをさせたくない。
この場で収めてどうか警察に突き出すような事はさせないで欲しい。
「どうして?美樹さん、なんで……
私が何かしたの?私のことずっと嫌いだったの?」
初花の声は震え、瞳から今にも涙が溢れそうだ。
「違う!!」
美樹は立ち上がって否定した。
「私はただ、あなたにこの仕事を続けて欲しかっただけなの」
「仕事……」
予想外の返答に初花はそれ以上の言葉を失った
「彼と約束したから。モデル 一花を支えるって」
彼?
私がモデルを続ける事を望む人って誰?
吉濱社長?
ううん、そんなはずない…
社長は私の意思に任せるって言ってくれた。
初花は思い当たる人物が浮かばなかった
「彼って誰のことですか……」
美樹は大きく深呼吸して、微笑んだ。
「大晴…、御沢大晴(みさわたいせい)よ」
初花は魂が抜けたように、床にストンと座りこんだ。