猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
なんで……
どうして美樹さんが大(たい)くんを知ってるの?
大くんから美樹さんの名前を聞いた事はない。
いつから知り合いだったの?
「どうして……」
何とか口にした言葉に美樹はまた微笑んだ
「加嶋建設で同期だったのよ。私がパワハラに遭っていたのを彼が助けてくれたの。彼がいなかったら私は今この世にいなかったかも知れない」
あの時、彼が最初に気づいてくれて同期みんなに協力を頼んでくれた結果、大事にせずあのパワハラ上司を地方へ追い払う事ができた。
「そんな事がなくてもあの容姿と性格だもの、惹かれてしまうのは仕方ないわよね。もちろん社内でも人気の彼に彼女がいないとは思わなかったけど、気持ちにケジメをつけたくて勇気を出して告白したの。その時にモデルの一花が彼女だって知ったの」
美樹は振られたからといって彼を嫌いにはなれなかった。同僚として話をする内に、二人には共通の夢があることに気づいてからはいい仕事仲間になった。
それと同時に彼の恋を応援するようになっていた。
「色々あって、私たちは同じ夢をもつ親友になったの。そんな時にシンガポールで事故が……」
「やめて!」
初花は両手で耳を塞いだ。
「そうね、ごめんね」
美樹は謝って『大丈夫』と初花の手を外させた。
「麻生さん、知ってましたか?初花は未だに大晴の事故の話を聞けないんですよ。それほど深く彼を愛していたから、そうよね?」
「深く愛してた……」
さっき蓮さんも言ってた……大くんを愛していたと。
愛……そこまで確かな気持ちだっただろうか
否定しなかった初花に苛立ちと落胆、蓮の心の中はその両方がない交ぜとなった。
「それとあなたのしてきたストーカー行為とは別問題だ!」
蓮の怒号に美樹の顔つきが変わった。
「だから!ストーカーじゃないの!大晴に頼まれたから、彼の代わりに応援してきたのに、新しい仕事だって一生懸命探してるのに!それなのに初花がこの仕事を辞めようとしてるから、励ましてたの!!」
「何を言って…」
ここにきて初めて彼女の狂気が現れた。
思い込みの激しい性格なのだろう。
彼が亡くなった事実を自分なりに処理するために自己暗示をかけたのかも知れない。
「シンガポールのプロジェクトには私も参加してた、だって私たちの夢は橋をかける事だもの。だから大晴が事故に遭った時、最後にそばにいたのは私なのよ」
「うそ……」
「彼は最後にあなたの事を頼むって言ったわ、
だから私は会社を辞めてあなたのマネージャーになったのよ。そうだ!来月の月命日は一緒に行きましょうね」
「えっ、まさか…いつも先に来てたのは…」
おばさまじゃなかったんだ
「そんな……」
「初花、わかってる?あなたは大晴のプロポーズを断ってまでモデルを続けたかった。あなたが一緒にシンガポールに行っていたら大晴はあの事故に遭わなかったかも知れないのに…」
美樹のその言葉は鋭いナイフとなって初花の心に深く突き刺さった。
「そんな憶測は止めろ!」
初花を苦しめるのは許さない!
蓮は部屋から連れだそうと美樹の腕を掴んだ。
「だからあなたはこれからもこの仕事を続けていかなくちゃダメなのよ!」
蓮に引っ張られながら、美樹は初花に向かって叫ぶ
「辞めるなんて絶対に許さないから!」
「出て行け!今後の事は追って話をする!」
蓮は扉の外で待ち構えていたディークスに美樹を引き渡した。