猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
完全に彼女の姿が見えなくなると、蓮はようやく腕の中から一花を離した。
「信じられない!!」
一花はありったけの力で蓮の胸を叩いた。
「ああ、俺もだよ。あんなに上手くいくとはね」
蓮は胸を叩く腕をつかまえて、笑いながら 一花を引き寄せようとしたが、全力で振り払われた。
「違うわ!あなた私に何をしたと思っているの?!」
「恋人同士が暗がりでする定番?」
そう言って口の端をあげる蓮を見て、 一花は魅力的だろうと思ったのは大間違いだと知った。
魅力的なんてものじゃない。
悪魔の笑みだわ。
「馬鹿にしてるんですね」
後で思い出して、 ここ数年こんなに怒ったことはないと思った。
「まさか!」
心外だとばかりに蓮は胸に手をあて首を振る。
「私が恥ずかしがり屋ですって?!よくも、よくもあんなことを彼女に!」
限界はとうに超えていた。
怒りのボルテージがMAXを振り切っている
甘く囁かれ、戸惑ううちにとんだ猿芝居につきあわされてしまったのだ。
それもあの大嫌いなわがまま麻未を相手に恋人の振りをさせられるなんて。
怒りと動揺が一花の体中から嵐になって溢れ出る。
「あなたは……」
堪える間もなくはらりと大きな瞳から涙が落ちた。
「すまなかった!!」
一花の涙を見て蓮は心底慌てた。
そんなつもりはなかった、彼女を泣かせるなんて……
差し出した手を振り払うと彼女は走り出した。
「待ってくれ!本当に悪かった、すまない」
「もう私のことは放っておいて!」
「……それはできない」
一花は大きく息をつくと、手の甲で涙をぬぐい陽人も 恐怖にひきつったことのある冷たい怒りの瞳で彼を見た。
蓮は引き留めようと踏み出した一歩を止める。
「あなたはこれ以上何もできないわ」
一花はぐっと押し黙った彼を一度も振り返ることなく庭の中へ消えていった。
蓮は追いかけなかった。
彼女のことは調べればすぐにわかる。
今はこの失敗を取り戻すのに少しの冷却期間が必要だろう
それにしても……
運命ってやつは……
蓮は今日ここにきて初めて本物の笑みを浮かべた。