猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆

― 昨夜 ー


「謝って!!」

エメラルド色のドレスのまま研究室に飛び込んできた彼女は開口 一番そう叫んだ。

「ごめん??」

状況が飲み込めずに陽人はとりあえず謝った。

「ダメ!!絶対に許さない!」

烈火のごとく怒っている一花に、陽人はますます訳がわからなくなった。

「めちゃくちゃだな……」

一花は初等科からずっと一緒の友人 久遠朔哉(くどうさくや)の妹だ。

昔から朔哉に必ずくっついてきて、モデルになるまでは俺たち仲間の間ではマスコット的な存在だった。

中でも同じ妹のいるせいか俺にはよく懐いて、卒業してからも時々こうして俺の所に愚痴りにくる

本当の兄貴の朔哉は医者で忙しくて相手にしてもらえないから、と言うのもあるだろうか。

「今度はいったい何があったんだ?」

どうせまた仕事であの我儘なお嬢様と何かあったんだろう。

「違っ…」

「ん?」

悪口に同意してやりながら支離滅裂な一花を楽しもうという考えは、彼女の顔を見た途端に消えた。

「彼女はどこだ!」

陽人は立ち上がり怒りもあらわに入口へ向かった。

女同士の争いに首を突っ込むほど馬鹿なやつはいないとわかっていても、滅多なことでない限り人前で涙を見せない一花の頬にその跡を見れば、ひっかき傷の一つや二つ負うことになろうと出て行かねばなるまい。

「か・の・女、じゃないわ」

一花はわざと女の部分を強調して言った。

それを聞いて陽人はさらに怒りをつのらせた。

「男なのか」

「ええ、そうよ!」

一花の心はまだ嵐が吹き荒れていた。

「そいつに何をされた?」

「それは……」

一花の頭を一瞬彼とのキスがよぎり頬が赤くなるが、その先を思い出し悔しさから唇を噛みしめた。

その様子に陽人は拳を握り締めた。

「わかった、そいつは今どこにいる?」

「あなたが知っているわ」

「なんだって?!」

一花の言葉が理解出来ず陽人は頭を振った。

「だから私は知らないけれど、あなたは知っているって言ったの!」

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