猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
陽人は訳がわからなくなり、もう一度一花をよく見た。
確かに彼女の頬には泣いた形跡がある。
だが瞳はどうだ?
彼女の大きな瞳はいつも雄弁だ。
そして今そこには紛れもない怒りが見て取れる。
打ちひしがれているのではない。
陽人は大きく深呼吸し、もう一度順を追って話を聞いた方がいいだろうと判断した。
「いいか、落ち着いてくれ。深呼吸するんだ」
一花は言われた通り、瞳を閉じて大きく息を吸って長く吐き出した。
「よし、まずそいつの名前を言うんだ」
その言葉に一花は冷たい怒りの瞳を陽人に向けた。
「蓮よ、あ・そ・う・れ・ん」
一語一語はっきりと聞こえるように言った。
「……なるほど」
陽人は何とかそう言うと、驚きのあまりしばらくそのまま黙りこんでしまった。
「陽人!聞いてるの?そこの写真にいるあなたのお兄さんの事よ!」
我に返った陽人に一花の怒涛の攻撃が始まった。
にやけた悪魔に恥知らずのナルシスト等々
創意に満ちた罵詈雑言や悪態すべてがあの兄の事かと思うと、陽人は笑いたいのを堪えるのに必死だった。
もしここで笑ったりしたら、次は我が身。
自分は利口な弟だから(妹の美桜ならばこういう時だけ要領がいいというだろう)一言も口を挟まずに、彼女の気のすむまで聞き役に徹した。
「話はよくわかったよ」
「あなたからよーく言っておいてね」
「はいはい」
タクシーで彼女を送る間も怒りの熱弁は続いたが 、最後に彼女は兄への伝言を残し家へ入っていった。
陽人は家に帰ってからじっくり考えてみた。
兄さんと一花。
これは面白いことになりそうだ。