猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆

謝罪?


蓮は社長になったその日から、現場がどのように機能しているのか自分の瞳で確かめるのを常としている。

それを由としない役員の声が多い事も知っていたが、
現場の人間達は若い社長のやる気と受け止めてくれているのか、立場上仕方ないのか突然の訪問もイヤな顔もせず応対し意見を言ってくれるのだから、今のところは良いのではないだろうか。

理想論だと笑う者もいるだろうが、調和は良い流れを生み出し、希望ある力が夢を後押しすると思っている。

それに蓮自身、現場を訪れるのは窮屈な社長室や会議室にいるよりずっと楽しい。

「15分だけですよ」

秘書の鷹田(たかだ)が念を押した。

元々父親の秘書の一人だった鷹田は、蓮がやんちゃだった頃からのよき理解者である。

「わかってる」

向かっているのは千葉にあるサーキット。

環境への取り組みとして行っている植樹のイベントに挨拶をした帰り、蓮の希望を鷹田は叶えてくれた。

父の影響から幼い頃から車が好きだった。

レーサーになったのはより速い車に乗りたかったからだ。バックミラーに映る後続車、瞳の前を走る車がいない光景は10代の自分にとって何物にも勝る快感だった。

「運転はお控えください」

「ああ、それもわかってるよ。
 おまえの言うことを聞かないとどうなるかは」

蓮は大袈裟に肩をすくめた。

前回、ちょっと懐かしくてハンドルを握ったら鷹田の凄まじい怒りを買ってしまい、危うく免許証を取り上げられる所だった。

次にそんな事をしたら自分の命と引き換えにしてでも、俺の免許を取り上げると脅されている。
いや、鷹田なら本気で取り上げるだろう。

蓮はその光景が簡単に想像出来て身震いした。

一生運転手付きの車しか乗れないなんてごめんだ。

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