猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
蓮はさりげなくのんびりと歩いているふりをして、前方を歩く彼女に近づいた。
「こんにちは、一花さん」
「えっ?!あなたは!」
振り返って一花は大きな瞳を更に丸くして彼を見上げた。
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撮影は一旦休憩に入っていた。
今日はペットを連れて彼とドライブデートという、
車の広告ページの撮影だ。
ワンちゃんと自分の分は殆ど撮り終えたが、相手のモデルさんが動物に好かれないタイプのようで、中々いいショットが撮れず苦戦していた。
ワンちゃんも訓練されている仔達とはいえ、無理強いすることは出来ないし、休憩も必要だ。
それなりに時間はかかるのは承知しているので、相手の撮影が終わるまで一花は公園を散歩している所だった。
*****
「こんな所で何をしているんですか?!」
スーツだからお仕事?こんな場所で?
「散歩」
一花の疑問を読み取ったかのように蓮は笑って言った。
「あ、そうですか。さようなら」
先日の事を全く反省していない様子の彼に、一花は踵を返し反対の方向へ歩き出した。
「待って」
彼女の後ろ姿が怒ってる。
蓮は苦笑いしながら追いかけた。
「先日はすまなかった!」
「何の事でしょうか」
もちろんわかっているけど、
会話をする気になれない一花は歩みを速めた。
「それは、」
蓮は一花を追い越すと回り込んで彼女の前に立った。
「あのバサバサと人工的な音がする睫毛が計算された角度で見上げてくる瞳や、語尾の上がった甘ったれた口調に耳鳴りがしそうだった彼女よりも、何も飾らない君の方がずっと控えめで美しいと思ったのを正直に言わなかったことかな」
一花は笑いそうになる唇をきつく結んで堪えた。
「そうですか」
彼を追い越すと、つんけんした態度でまた歩き出す。
「まだある。助けて欲しいと懇願した俺を無慈悲に笑った君にキスした俺はナルシストだったと反省したんだ。とんだ猿芝居に付き合わせてしまって本当にすまなかった」
一花の足がピタッと止まった。
陽人のバカ!
何も私の言った悪態全てを言わなくてもいいのに!
「でも俺が覚えている限り、君は拒否しなかったし、
背中に君の手を感じた気がしたんだが……
それも俺がナルシストの悪魔だからそう思ってしまったんだな」
一花はカッと頬が熱くなるのを感じたが、
振り向いてそれを見せる過ちは犯さなかった。
「わかりました、謝罪は受け入れます。さようなら」