猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
彼女は少し首を傾けて瞳を覗き込んできた。
わかってやっているのか無意識なのか……
蓮は仕方なくその瞳を見返す。
彼女の言っていた瞳の奥にあるもの、
それは心の奥にあるものと同じものだと?
本当に見つけられるのだろうか?
またしても彼女の笑みに心がざわめき、 受け入れられたいと、前回以上に彼女を欲し理解を求めてしまう。
「やめてくれないか?」
「えっ?」
「俺の瞳の奥にあるものを探るのは止めてくれ」
はっとして一花は瞳を伏せた。
「ごめんなさい、そんなつもりではなくて……」
「そんなつもりじゃないのならば、誘ってる?」
「なっ、違います!私が無意識にしてしまう癖のせいで不快にさせてしまったなら謝ります」
「無意識に男を口説いていると?」
「もう!これだからあなたのような人は嫌なのよ!」
「それはどういう?」
「だからっ!」
ピピと着信音がして、彼女は急に口をつぐんだ。
「ごめんなさい」
一花はポケットから携帯を取り出し、表示を見て短くため息を吐いてまたポケットにしまった。
蓮は、いいのか?とは聞かなかった。
鳴った瞬間に、彼女の表情が一瞬強張ったのを見逃さなかったから。
何かに怯えている?
それとも何かを隠してる?
今度は蓮が色々な感情を含んでいるように見える彼女の瞳をじっと見つめた。
一花は苦笑いした。
「お仕事中ですよね、私も行かないと」
「いや、まだ話がある」
そうさ、彼女ともっと話がしたい。
そして彼女が何に怯えているのかを知りたい
「なんですか?」
「今夜の予定を聞いたらどうする?」
「どうもしません」
間髪入れずに答える一花に蓮は苦笑う。
「そう言うだろうと思ったよ」
「それならば聞かないで下さい」
「それはOKという事だろ?」
一花は眉間に皺をよせ思い切り不快な表情をして彼を見て小さな声で言った。
「ナルシストの勘違い男……」
それを聞いた蓮は破顔して彼女の手を恭しく取った。
「君に言われると、誉め言葉に聞こえるよ」
「また怒らせたいんですか?」
一花に手をぞんざいに振り払われても蓮は気にしなかった。
大きな瞳を更に大きくして怒る姿が、何故か魅力的に見えると知ってしまったら。
「もう!どうして笑ってるんですか!」
「どうしてもダメ?お詫びだと言っても?」
蓮はあの時と同じ助けを懇願するような顔をした。
今回はお願い!と可愛らしく両手を合わせて。
もう!なんて狡い人!
思いがけない彼の可愛らしい顔に一花は下を向いて笑いを堪えた。
彼が楽しい人だと思えるのは意外だわ。
でもやっぱり無理かな
「明日も撮影があるから」
「軽いものなら?」
「他の子はどうかわからないけれど、私は睡眠を大事にしていて、撮影の前日は出来るだけ早く眠るようにしているんです」
「そうか。では撮影がない日ならばOKしてくれるって事だな」
「それは…、そうですね」
「わかった、ではその時にまた」
彼だって忙しい人なのは想像できたから、また会うこともないだろうと、一花は軽い気持ちでそう答えた。
まさか、本当にそんな日がすぐに来るとは思いもしないで……