猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆

手強い相手


都内にあるスタジオで一花はsuiteの来月号の撮影を撮り終えて、先日の車の広告の出来上がりを見ていた。

「いいですね」

「ああ、ワンコに手こずった割に彼もいい表情に撮れてるよね」

「ええ」

あれから一週間か。
サーキットでの事が何だか遠い昔の事みたい。

一花は小さく首を振った。
また、なんてあり得ない。
そもそも連絡先の交換もしてないんだから。

「じゃあ今日はこれで。お疲れ」

「はい、お疲れ様でした」

一花が帰り支度をしてロッカーから出ると、ざわめきが聞こえてきた。

「嘘っ……」

数人のスタッフの中にひときわ目立つ男性に向かって、編集長が思いきり恐縮している。

「麻生社長自らお越し下さらなくても、こちらからお伺いしましたのに」

「近くに来たついでですから、どうぞお気になさらずに」

ああ、あの車の広告は彼の会社のものだったんだ。
編集長と話す彼を周りの女性スタッフはポーッと見ている。

「蓮さん」

「えっ?!先輩お知り合いなんですか?!」

ぼそっと言った言葉を聞き逃さなかったのは、同じ事務所の2つ年下の後輩モデルのジェニー。

一花に憧れてこの世界に入ったというジェニーは、
父親がアメリカ人のハーフで、最近はTVのレポーター等の仕事もこなす人気上昇中のモデルだ。

スレンダーなボディに薄茶色の巻き髪が似合うどこから見てもおっとりとした外見なのに、中身は言いたいことをズバっというはっきりとした性格。

見た目と本来の姿とのギャップが激しいが、そこがいいと世間に受けている様だ。

そして彼女にはもう一つの顔がある。

お洋服大好きで自分のブランドを持ちたい野心がある彼女は、セレブのいい男に敏感で常に玉の輿を狙っている。

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