猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
「し、知り合いっていうか……」
「すごい!すごい!」
ジェニーのこの反応……嫌な予感がする。
陽人の兄という認識が大きかったから、そこの部分は抜けていたのよね。
そうね、今日のスーツも高そうだもの。
「紹介してください!!」
そうですよね、ええ、それでこそジェニー。
「以前パーティーでちょっとお話した事があっただけよ。それほど親しくないわよ」
うん、嘘は言ってないつもり。
「えぇー!うそー、いつのですか?
彼、パーティー嫌いで有名なんですよ?」
残念、失敗。
「そっ、そうなの?彼の事、よく知ってるのね?」
「もちろんよく知ってますよ!セレブの中であそこまで罪深いハンサムは中々いませんからね、その辺の俳優よりよっぽどイケメン。どのパーティーでした?」
「確か……ほら、先日の創刊パーティーだったかな」
ここは無難に乗り切るしかない。
間違っても友人の兄だなんて知られたら最後、大変な事になる。
「信じられなーい、私もいたのに。どうしてすぐに呼んでくれなかったんですか?」
「いやいや、私も後で気づいたのよ。彼がASOの社長さんだって。それにほらジェニーはあの時は夕日TVの人と盛り上がってたから……」
うん、これは本当よ。
っていうか、ASOの社長さんと気づいたのは今だし。
私は先に帰ったんだし。
「先輩とどんな話をしたんですか?」
あーもう、まだ続けるの?
「えーと何だったかしら?そんな大したことでは。
たぶん向こうは私の事なんて忘れちゃってると思うわ、その程度よ」
「本当に?」
ジェニーの視線が痛い。
恋人の振りをした事の愚痴なんて絶対に出来ない。
「ほ、本当よ」
「どうして先輩は彼の事を覚えてたんです?先輩いつもなら誰に声を掛けられようと、全然興味なくて忘れてるくせに」
「だってほら、ジェニーも言ったじゃない、あんな顔立ちの人を忘れるわけないでしょう?」
視線が怖くなってきてます、ジェニーさん。
どうか彼が私に気づきませんように!
一花は心の中で必死に祈った。
「ふうーん」
ジェニーはしばらく疑わしげな目を向けていたが、
一花が必死に首を振るとようやく諦めてくれた。
「ジェニー!支度できた?!このあとTV局で打ち合わせがあるから急ぐわよ!」
マネージャーの瀬川美樹(せがわみき)が走ってきた。
「えー急がなくても!麻生さんにご挨拶だけでも…」
「何言ってるの、ダメよ!時間ない!」
美樹さんはジェニーの荷物を持つと、早く早くとジェニーを急き立てた。