猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
向こうを見ると、彼はまだ編集長と話している。
よし、大丈夫。

『美樹さん、ありがとう』
一花は声に出さずに手を合わせた。

美樹さんは、3年前に事務所に入った小柄な女性。

年齢は2つ上で髪は肩上で短く切り揃えられ、いつもぱりっとしたスーツに実用的な黒のパンプスを履きテキパキした仕事ぶりが現場でも評判だ。

一花もジェニーも姉のように慕っており、仕事以外でも一緒に食事をしたり旅行に行ったりする。

「一花ちゃん、鳴ってたわよ」

美樹さんが傍にあった一花のバックを渡した。

「あっ、すみません」

美樹さんは何か仕事の事かも知れないから教えてくれたのだろうけど、着信音を変えているので一花には鳴っていたのが何かはわかっている。

「先輩、もしかして例のやつまだ続いてる?」

「うん、まあ……」

一花は曖昧に笑った。

「警察も一応気にしてくれてるみたいだけど、今のところソレだけだからね」

美樹さんが『念のため確認しておいてね』っていうから、一花はため息をつきながら鞄から携帯を出した。

「何も起こらないといいけど」

渋い表情をするジェニーの背中をペチッと美樹さんが軽く叩いた。

「物騒な事言わないの!さっ、行くわよ!」

「はーい、じゃ先輩またね~お疲れ様でしたー」

「お疲れさま」

一花は操作に手間取りながらジェニー達に手を振った。

上手く行かなかった指紋認証がやっと解除されて、届いたメッセージを開いた途端ジェニーに向って振った手の先がこわばった。

「はあ……」

【今日も頑張ったね、犬との広告楽しみにしてるよ】
もう!どこで見てたの?!

携帯を投げつけたくなるのを押さえて、ぎゅうっと握りしめた。

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