猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
「仕事は終わったかな?」
背後からの声に無意識で『ええ…』と答えてから、
その声の主にハッとした。
ああ、もう。いつの間に!
彼がそばに来たのに気づかなかった。
「蓮さん」
「この後の予定は?」
「今日はこれで終わりですけど」
「けど?明日もまた撮影がある?」
「いいえ、でも……」
あります!と言いたかったのに、悲しいかなこの性格は小さな嘘がつけない。
それでも今日はもう誰かと、いやどこぞの社長さんと食事をする気分ではなかった。
そこで一花は彼をまじまじと見て気が付いた
パッと見てイタリア製のいいスーツだなとわかるけど、よく見ると洗練されたそのスーツは彼の身体にぴったりでもちろんオーダーメイドだろう。
それに比べて安物とは言わないけれど、私はジーンズにニットアンサンブル、おまけに靴はぺたんこパンプスという軽装。
「でも?」
「私ではなくても……」
一花はスタッフの視線を感じてさりげなく周りを見た。
やっぱり見られてる。
この人は気にしないのかな?
「それはどういう意味だ?」
「あなたはその辺のスタッフや営業マンじゃないんだし……」
言いながら鞄を持ってジリジリと人気のない場所へ移動した。
蓮がついてきても、流石に追いかけてきて覗く人ような野次馬はいないみたい。
「君を誘うのに職業が関係あるのか?」
「そうじゃないわ。
でも今日は私こんな格好だから……」
そう言った途端に彼はひょいと片方の眉を上げ、次いで眉間にシワを作った。
「それは服を買ってやれば行くって事か?」
「そんな訳……」
ないでしょう!と言う前に一花の言葉は遮られた。
「俺が安月給じゃないからって……」
今度は蓮が最後まで言い終わらないうちに一花は彼を振りきるようにスタスタ歩き出した。