猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
三度目は……
ー 数日後ー
久しぶりの休日、ゆるい坂道をノロノロと上がってきたバスがいつもの停留所についた。
「いいお天気」
バスから降りると、午後の温かい日差しに澄んだ青空を見上げて一花は大きく伸びをした。
都心から離れた静かな山の裾野、1日に数本しかないバスの時刻表はもう確認しなくても頭に入っている。
「こんにちは」
数え切れないくらい通っているので、入り口の案内所のおじさんとはすっかり顔馴染みになってしまった。
皺が刻まれた丸い顔にいつも同じ穏やかな笑顔で私を迎えてくれる。
あの日もこんな風に雲ひとつない綺麗な空が広がっていた。
初めて一人ここへ来た日……
どうしても先に踏み出す事が出来ずに長い時間この場に立ち尽くしていると、おじさんはただ一言『いいお天気だね』と今日と同じ笑顔で言って背中を押してくれた。
「昨日の雨で石畳は滑りやすくなってるから、その靴で転ばないように気をつけてな」
「はい」
ヒールのある靴を指さすおじさんに笑顔でうなずいて一花は目的の場所へ向った。
たぶんもう瞳を閉じていても辿り着ける彼の眠る場所
5年が過ぎた今でも彼の死を認めたくない部分は残っているけれど、後悔と苦しみに駆られた日々はもう過ぎた。
時間の流れに少しずつだけど心の折り合いをつけてきた、つもり。
住所のように区画されている番号の907番
そこが彼の眠る場所。
「またおばさんと入れ違っちゃったな」
月命日にここへ来ると必ず新しい花が供えられている。
おばさんの優しさを思い出すと自然と笑顔になれる。
口には出さないけど、周りはいい加減忘れた方がいいと思っていることはわかっていた。
だからここへ来ている事は皆には内緒にしている。
それでも実家の隣に住む彼のお母さんが、 私がここに来ている事を知っていて黙っていてくれることが嬉しかった。
久しぶりの休日、ゆるい坂道をノロノロと上がってきたバスがいつもの停留所についた。
「いいお天気」
バスから降りると、午後の温かい日差しに澄んだ青空を見上げて一花は大きく伸びをした。
都心から離れた静かな山の裾野、1日に数本しかないバスの時刻表はもう確認しなくても頭に入っている。
「こんにちは」
数え切れないくらい通っているので、入り口の案内所のおじさんとはすっかり顔馴染みになってしまった。
皺が刻まれた丸い顔にいつも同じ穏やかな笑顔で私を迎えてくれる。
あの日もこんな風に雲ひとつない綺麗な空が広がっていた。
初めて一人ここへ来た日……
どうしても先に踏み出す事が出来ずに長い時間この場に立ち尽くしていると、おじさんはただ一言『いいお天気だね』と今日と同じ笑顔で言って背中を押してくれた。
「昨日の雨で石畳は滑りやすくなってるから、その靴で転ばないように気をつけてな」
「はい」
ヒールのある靴を指さすおじさんに笑顔でうなずいて一花は目的の場所へ向った。
たぶんもう瞳を閉じていても辿り着ける彼の眠る場所
5年が過ぎた今でも彼の死を認めたくない部分は残っているけれど、後悔と苦しみに駆られた日々はもう過ぎた。
時間の流れに少しずつだけど心の折り合いをつけてきた、つもり。
住所のように区画されている番号の907番
そこが彼の眠る場所。
「またおばさんと入れ違っちゃったな」
月命日にここへ来ると必ず新しい花が供えられている。
おばさんの優しさを思い出すと自然と笑顔になれる。
口には出さないけど、周りはいい加減忘れた方がいいと思っていることはわかっていた。
だからここへ来ている事は皆には内緒にしている。
それでも実家の隣に住む彼のお母さんが、 私がここに来ている事を知っていて黙っていてくれることが嬉しかった。