猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
そっと手を合わせると 『思いっきり頑張ってこい!』
最後に言ってくれた言葉を思い出す。
今はもう込み上げてくる想いは寂しくて悲しいんじゃなくて、戻れない日々が懐かしくて温かいと感じるものになっている。
そうそう、ねぇ聞いて。
変なメールや無言電話は相変わらず来るのよ
一体、誰が何の目的なのかしら?
一花は手を合わせながら、いつものように墓石に向かって心の中で話しかけた。
1日に何通か来るメール。
どこで食事をしてたねとか今日の服装はいいねとか、スケジュールの内容にちょっとした感想をつけた気味の悪いメールが携帯に届き始めてもうかれこれ半年以上が過ぎた。
もちろん事務所が警察に相談してくれたけど、メールの送信先を調べてもらったら、複雑に違うところを経由して送付されているらしいので特定のしようがないらしい。
事務所も大袈裟にして、変なスキャンダルになるのを恐れているし。
これまでは誰かに付けられていると感じた事もなければ、今のところ仕事でもプライベートでも恐怖を感じた事はない。
どうしたらいい?
もしもの時は助けてくれるよね?
一花は周りを心配させたくなくて隠してきた不安な気持ちをここで打ち明けた。
もしも、なんて言ってみてもそれがどんな状況なのか想像もできない。『無茶するなよ』って彼なら怒っていたはず。
「わかってる」
一花は声に出して言って自分を励ました。
ヒューっと頬をかすめる風が吹いて、冷たさに震えた。
腕時計を見ると最終バスの時間が近づいている。
「また来るね」
もう一度手を合わせてから立ち上がった。