猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
入り口へ戻る途中、静かで滅多に誰かとすれ違ったりしない細い道で、後ろからカツカツと微かな足音がした。
気になって立ち止まると、
夕日が長い人影を私の前まで写し出す。
誰?!
まさか!!
一花は震える胸を押さえて警戒しながら振り返って、
はっとした。
そこには思ってもみない人が立っていたから。
「蓮さん!?」
私が驚いたのと同じくらい驚いた顔で彼も私を見ていた。
「どうしてあなたがここに?」
「両親の墓参りだ」
「ご両親……」
彼の長い指が指した方向には、少し高い場所に周りよりひときわ広く構えられたお墓が見えた。
新しく供えられたであろう花とお線香の煙が見える。
そうだった、
確かご両親は飛行機事故で……
「君は?」
「えっ?私は……」
一花が言いよどむのを見てあえて聞かない事にしてくれたのか、または興味がないのか、彼は話題を変えてくれた。
「まだ怒ってる?」
「何の事でしょうか?」
一花はわざとらしく首をかしげて、何の事かはっきり覚えているという顔をして見せた。
「はははっ、だろうと思ったよ」
私をお金目当ての尻軽女扱いした事をそう簡単に忘れる事はないわ。
彼がどんな魅力的な顔をしていようと、どんなにお金持ちだろうと、そんなこと私には関係ないんだから。
「確か俺とはもう二度と会わないとか言っていたような気もするが」
「ええ、そうなると思っていました」
「それなのに、どうしてこんな所で偶然逢ってしまうのかな?」
「どういう意味です?」
彼は答えずにクスッと笑った。
「偶然が重なると、違う呼び方になると思わないか?」
「え?」
一花は少し考えて【運命】彼が言おうとしているのはその言葉だと気づいた。
違う……
これは運命なんかじゃない
この偶然に意味なんかない
「どんな呼び方にもならない場合もあります」
「でも、神様いや女神様か?いづれにせよ、俺にチャンスカードをくれたんだと思うよ」
「残念ですが、チャンスカードは私が持ったままです」
一花は蓮を置いてスタスタ歩き出した。
「待って。送っていくついでに食事をするっていうのはどうだい?」
早足で歩く私の隣を彼は普通の速度で歩いている。
「結構です、バスで帰りますから」
「逆らわない方がいいと思うぞ?」
「何にですか?別に逆らってなんかいません」
彼が言いたい事はわかる
けれど私は運命に逆らってはいない。
ピピピと、メールを知らせる着信音にビクッとした。
「一花さん?!」
「ちょっとすみません」
この会話を終わらせるのに都合がいいので、例のメールだろうとわかっていたのに一花は鞄から携帯を出した。