猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆

「なにこれ?」

もうお馴染になってしまった気味の悪いメール

でも、今日はそれに添付ファイルが付いていた。
そんなことは今まで一度もなかったのに

「しゃ…しん?」

頭では開いてはいけないとわかるのに、急き立てられるように指がファイルを押す

何が出てくるの?

ドクドクと心臓が嫌な音を立てて不安が足元から競り上がってくる

「これって……」

パッと開いたそれは写真で、それを見た一花は恐怖に息を呑んだ。

「いやっ!!」

咄嗟に携帯を投げ捨てその場に座り込む。

驚きと恐怖で身体に力が入らない
石畳のひんやりした感触が背中をぞわぞわさせる

「どうした!?」

「あ…あっ……あれ…」

蓮は険しい表情で一花の隣にしゃがんだ。
自分を見る彼女の大きな瞳が不安で揺れ、唇がわなわなと震えて言葉を紡げないほど怯えている。

「大丈夫、大丈夫だ」

蓮は落ち着かせるように優しく背中を撫でる

「しゃ、しゃ、しんが…、」

一花は震える指で携帯を指差す

「写真?」

蓮は長い腕を伸ばして携帯を拾って画面を見る。

「これは?」

「それ…わ、たしの……部屋」

「ん?」

「ベット…の、と…けいが……」

一花は掠れる声で途切れ途切れにやっとそう言った。

「わかった」

蓮は彼女の言わんとしていることを理解し、黙って携帯をポケットにしまった。

「どう、して?」

一花はそれ以上言葉続かなかった。

送られてきた写真に写っていたベッドに
『あれ?このベットカバーは私のと似ているな』と
思ったのを自分のものだと認識できたのはすぐのこと。

その上に置いてある本は今朝までかかって読んでいたもので、出て来る時に放り投げたのと同じ位置にある。

だからその写真は間違いなく私の部屋

なぜ?誰が?どうして?押し寄せる疑問の中
ベットの上の時計が16:30つい先ほど腕時計を見た5分前を指しているのに気がついた。

今、部屋に誰かがいる!!
それを認識してしまった瞬間、どうしようもない恐怖が頭を混乱させた。

何がどうなってるの?!

また例のメールを告げる着信音が鳴った。

「っ!!」

一花は声にならない短い悲鳴をあげた。

蓮はポケットから出して、さっき開いたままの画面の次を見てもう一度ポケットにしまった。

「見せて」

一花は立ち上がる事も出来ないほど震えてるのに、何としても確認しなければならないという強迫観念に囚われた。

「見る必要はない」

蓮がなだめるように優しい声で言うから、それがどんなものか想像出来てしまった。

「見せてよ!!私の携帯なのよ、返して!」

叫んだ声が普段より高くなっている
もういつパニックを起こしてもおかしくない

一花は何度か短く息を吐き出して必死に落ち着こうとした。

「止めるんだ!過呼吸になる」

「お願い、見せて下さい」

蓮は子供をあやすように優しく一花の背中を撫でながら、渋々コートのポケットから携帯を出して画面を見せた。

『君の事は何でも知っているよ』

たった一言
予想はついていたのに……

「おいっ!!」

見てしまった瞬間一花の視界がぐらりと揺れた。
夕焼けの濃いオレンジ色が視界からすーっと消えていく……

「なん……で…」

カラスの鳴き声とバサバサっと鳥の数羽飛び立つ羽音を聞きながら一花は意識を手放した。


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