猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
コツコツと石畳を歩く音と小さな揺れに一花はゆっくりと瞳を開けた。
カサカサと木々の葉が揺れる音がする冷たい風が吹いて、髪が頬にかかった。
「気分は?」
上から落ちてきた気遣わしげな低い声
「ここは?」
髪を払って周りの景色を見ると車らしきものが見えてきた。
視界がはっきりするにつれて意識もはっきりする
「降ろしてください」
蓮さんあそこから抱えて……
「大人しくしてろ!」
降ろす気のない私を抱く腕に力が込められて、恥ずかしさで視線を逸らして見た西の空
太陽が沈みかけている
「あっバス!」
慌てて見た腕時計の針は、乗るつもりだった最終16:40を指している。
時間よりいつも遅れてくるから走ればまだ間に合う
「降ろして下さい!」
「あ、おいっ!」
立ち止まった彼の腕からなんとか強引に降りて駆け出そうとしたら、ぐいっと腕を掴まれた。
「きゃっ」
倒れ込むように彼の腕の中に抱き止められる
「離して」
「気を失ったんだぞ!!」
蓮は自分を落ち着ける為に彼女をきつく抱きしめた。
自分の腕の中で意識を失っていく彼女を見てメールを送ってきた奴に激しい憎悪を抱いた。
それと同時に彼女の本来の姿を知りたまらない気持ちにもなった。
こんなに脆いくせに強がって……
許さない……
誰であろうと彼女をこんな目に遭わせる奴は決して許すものか!
蓮は彼女をそっと離すと夕陽が沈んでいく空を見上げた。
「蓮さん?」
「送っていく」
その口調は決定であり否定できるものではないと一花は悟った。
仕方ない、バスもないしここは近くの駅までお願いしよう
それよりも、これからどうしよう
どう考えてもこれから一人であの部屋に帰るのは無理
今日は実家に帰ろうか
ううん、それは絶対にダメ
モデルになると飛び出した家に突然帰ったりして勘のいい兄を誤魔化せるはずがない。兄はどんな手を使ってでも聞き出して私を連れ戻すだろう。
そしてこんな事があって帰ってきたと知られたら、忙しい両親にどんな顔をされるか……
「ダメ、どうしよう」
自分は一人ぼっちだという不安に押し潰されそうになる。
誰かに寄りかかりたいという弱い気持ちを必死で閉じ込めた。