猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
「それじゃあ、近くの」
駅までと言おうとすると彼がそれを遮った。
「信用できない?」
風が吹いて、彼の前髪を揺らした。
一花は何故かその横顔を見て泣きたくなった。
「え?」
彼は髪を鬱陶しそうにかき上げながら私を見て優しく微笑んだ。
「俺を頼って欲しい」
その穏やかな口調に例えようのない安心感が一花の心に甘く広がった。
『私は大丈夫です』と言おうとした途端にはらりと堪えていたものが瞳から零れ落ちた。
「大丈夫じゃないだろ?」
彼の手が優しく頬を撫で涙を拭う
その手がとても温かくて一花は唇をぎゅっと結んで涙を堪えた。
「…助けて…くれるんですか?」
「ああ」
「どうして?」
蓮は大きく腕を広げ、護るように一花をコートの中に閉じ込めた。
「チャンスカードをもらったから」
「もう……」
笑おうとして気を緩めたら塞き止めていたものが一気に溢れだした。
「大丈夫だから、な?」
蓮は子供の様に泣きじゃくる彼女を抱きしめてあやしていたが、中々泣き止まないので今度は水分不足になるんじゃないかと心配になってきた。
「そんなに泣くと干からびてしまう」
「だって……止まらないんだもん……」
「まったく……」
少し体を離すとそっと額に付けた。
「えっ」
驚く彼女を引き寄せると今度は唇を落とした。
優しくなだめるように唇を滑らせて彼女の両脇に腕を入れた。
「んっ……」
一花は自然と彼に抱きつく形になりしがみつくように彼の唇に応えていた。
蓮がいっそう強く抱き寄せて軽く歯を立てると、彼女が素直にそれに応え唇を開いたので思いのまま口内を蹂躙した。
「んんっ……」
甘い香りに身体中の血が沸き立つ
できることなら今すぐここで彼女を奪ってしまいたい
これまで一度も感じた事のない狂おしい程の切望に蓮の頭は爆発しそうになる。
くそっ!彼女は傷つき怯えているんだ。
「何も言わないでくれ」
蓮は唐突に彼女を離した。
一花は呆然と彼を見つめる。
苛立ちと切望の混じった鋭くて色っぽい瞳に驚きと、
ほんの少しの喜びを感じた。
「今のを謝るつもりはないから」
そう言って彼は強引に私の手を引き車の助手席のドアを開けた。
一花は素直にそこに座った。
不思議だけれど今のキスで気持ちは落ち着き、立ち向かう勇気が湧いてきた。
「近くの駅までなんて言っても無駄でしょうから、家までお願いします」
運転席に座った蓮はエンジンをかけながらニヤっと笑って一花を見た。
「なに?」
「運命を受け入れるか?」
「喜んで、って言えばいいですか?」
「それが正しいだろうな」
フロントガラスを見つめる彼女の瞳が、
『この選択は本当に正しいの?』と語っているのを見て、蓮は笑って首を振り車をスタートさせた。
正しいか正しくないかじゃない。
始めから、
出会ったあの日から決まっていたんだ
俺たちがこうなることは……