猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
不安
部屋をあのまま放り出す訳にはいかない
でも一人で確認するのは怖い、心の葛藤を隠して一花は車を停めてもらおうとした。
「その辺でいいです」
そう言って彼を見ると『ふんっ』と鼻であしらわれた。
正直に言えば、蓮さんに部屋までついて来て欲しいと思っていたのでほっとした。
車のスピードを緩めながら、蓮は近くのコインパーキングを探して空きのあった一つに車を入れた。
一花が降りるより先に車を降りると、蓮は彼女を庇うように肩に手を回した。
「行こう」
一花は知らずに緊張してこわばっていた身体から力が抜けた。
「大丈夫か?」
「はい」
少し歩くとマンションの前に着いた。
「ここです」
瞳の前の建物を指すと蓮が瞳を大きくした。
「君はその……あまり売れてないのか?」
「え?どういう意味ですか?」
「何故こんなセキュリティーの甘い所に……
事務所を変えた方がいいんじゃないか?」
「なっ」
まったく失礼しちゃう!
ここだってそれなりに高い家賃を払っているっていうのに。
「蓮さんが思うより甘くないです」
確かにここは立派なマンションではないけど
駅から近いし、入り口はきちんとしたオートロックだ。
それに一階に住む大家さん夫婦はいい人達だけど、奥さんは噂好きでいろんな事をよく見てるし、元警察官だった旦那さんはやたらと細かくてチェックも厳しい。
一花がそう説明すると彼は短いため息を付いた。
「本当に今朝までは」
「いいから、早く行こう」
「ちょっと!」
言っても無駄だと言わんばかりに彼に背中を押されて一花はエレベーターに押し込まれた。
「ん」
彼が顎でボタンを指す
「わかってます!」
乱暴に最上階のボタンを押してから、思いきり不満気な顔で彼を見上げる。
すると何の前触れもなく、ちゅっと軽く唇を重ねられた。
「な、なんでっ」
一花が驚いて口を押さえると、彼は涼しい顔で首をかしげた。