猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆

バカ、バカ、バカ!
なんで夢中で返したのよ!

「きゃっ」

部屋の前で腕が強く掴まれた。

「一人になるんじゃない!」

真剣な顔の彼を見て一花は言葉の指す意味を理解した。

「まだ中に?」

「可能性は否定できないだろ」

忘れかけた恐怖が込み上げて身体がこわばる。

「心配しなくてもいい。君を盾にして俺は逃げるから」

蓮がわざとらしく一花の背に隠れた。

「信じられない!」

「くくっ、冗談だよ」

彼が笑った事で張り詰めていた緊張が少しほぐれた。

「でも……」

ここまで気が動転していたから気づけなかったけど、
もし本当に中に誰か居て蓮さんに何かあったらどうするの?

『運命だよ』なんて笑って言う言葉に甘えてしまったけれど、もし彼が怪我をするような事になったら運命なんて言葉では済まされない。

「心配しなくてもいい」

一花の不安に気づいたのか、蓮は安心させるようにぽんぽんと頭を軽く叩いた。

「大丈夫だ。それなりに武道の心得はある」

「ううん、ダメです!」

一花は相談している警察署に連絡しようと鞄に手を入れると、蓮がポケットから一花の携帯を出して見せた。

「返して下さい」

一花が手の平を出すと意外な事に彼は素直に返してくれた。

「警察に連絡します」

「中を確かめてからの方がいいと思うが?」

「ダメです、あなたに何かあったらどうするんですか」

「俺の心配は無用だ、もちろん君の事は護るそれに…
警察が来ると大袈裟になるぞ?」

「それは……」

確かにこの状況で警察を呼んで中に入ったとして、何もなかったなんて事になったら物騒なマンションなのかと住民の人達に要らぬ心配をかけてしまう

そしてこの状況は周りに変な噂を立てられかねない。
それは事務所や彼にも迷惑がかかってしまう。

あれ?もしかして…彼はここに来る前からそこまで考えてたの?


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