猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆

出会い

門田出版の若い主婦層をターゲットにした新しい雑誌【Sweet Home】の創刊パーティーは、ここザ・ホテルトーキョーのホールで開催され多くの人で賑わっていた。

出版社主宰のパーティーともなれば、名前は知らなくとも顔は知っている著名人も多く出席している。

とりあえず必要な相手に挨拶さえすれば、役目は果たした事になるだろうと麻生 蓮(あそうれん)はホテルに到着して直ぐから、帰る事しか考えていなかった。

そもそもこのパーティは出席するはずのないものだったのだから。

それなのに
あの狸おやじが!!

『一人じゃつまらないから一緒に行ってくれよ』なんて言っておきながら、突然腹痛になって来られないなんて見え透いた嘘ついて。

蓮は奥歯を噛みしめた。

東堂コーポレーションの社長である
東堂絢也(とうどうじゅんや)のことは敬愛している。

両親の飛行機事故により、突然会社を継がねばならなくなった自分を助け導いてくれたのは父の親友である東堂だった、むろん恩義も感じている。

だが、これはない。

これまでも気づけば彼の思い通りだった事は何度かあるがそれを認めるつもりはないし、例えそうだったとしても蓮はこれまでの人生を悔いていなかった。

今日までは!

そう、この我がままを絵にかいたようなお嬢様の相手をさせられるまでは!

適齢期を過ぎているのに立場をわかっていないと、母の姉である大河内のオババが小言を言いだしたのはもう何年も前からだ。

仕事には厳しいアドバイスもする東堂だったが、プライベートには一切干渉してこなかった。

これまでオババ……零華(れいか)伯母様が送り込んでくる刺客(蓮は縁談相手をそう呼んでいる)を無下に断っても、東堂は口出ししてこなかったのに

それなのに……
原因はわかっている。

30年前異国の地で出会い愛した女性画家が秘密裏に産んだ息子が現れて、しかもその息子が娘同然に可愛がってきた親友の娘であり俺の妹の美桜(みおう)とつい最近結婚したせいだ。

何のお告げを受けたのか知らないが『俺には親友の分まで子供たちの幸せを見届ける責任がある!』なんて息巻きだして…

まさか宮司も絡んで……いや、それはない。

まったく、幸せボケはいい迷惑だ。


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