猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆

「どうした?早く支度をするんだ」

「へっ?」

意表をついた彼の言葉に思わずマヌケな声をあげてしまった。

「必要なものだけ持てばいい」

「どこに行くんですか?」

「はっ?ここにいるつもりなのか!?」

驚くと言うよりは呆れた彼が大きな声を出すと、バタバタっと音がした。

ひぃっ!と声にならない悲鳴が口から漏れ、
一花は彼の胸に飛び込んだ。

恐る恐る首だけ回して窓の方を見ると、
カーテンが風で揺れていた。

「落ち着け。窓を開けっ放しにしたままだ」

「もう!脅かさないで下さい!」

「この程度で驚いているくせに、今日はここで眠るつもりなのか?」

「それは……」

確かにそうなんだけど、
だからと言ってどこへ行ったらいいの?

私の行動は筒抜けなの
どこが安全かなんてわからない

ふと視線を感じて見上げると、彼が意味深な顔で私を見ている。

「なんですか?」

「俺がここに泊まればいい?」

「な、まさか!」

「ならば、さっさと支度するんだ」

そう言うと彼は玄関に向った。

「え?あの?!」

「気は短い方だと知らせておくよ」

彼は扉に手をかけ振り返ってそう言うと、外に出て行ってしまった。

「待って……」

一花はその場にへなへなと座り込んだ。

バタンと大きな音でドアが閉まって、嫌な静けさが部屋に広がった。
窓を見るとカーテンの向こうの空は、すでに夜の闇が覆っている。

ぞくっと背筋が寒くなった。
彼が出て行った途端この部屋に一人でいる不安と恐怖から動けなくなってしまう。

どうしてよ……
今朝までここは私の安息の場所だったのに。

「もう本当に嫌」

蓮さんはどうして出て行ってしまったの?
こんな状況で一人にしないで欲しかった

弱い自分が情けないのと、この先どうしたらいいのかわからない不安で涙が込み上げてくる。

「必要なものって?どこに行くの……」

ガチャッと玄関のドアの開く音がして、一花は慌てて瞳の前の雫型のルームランプを持って身構えた。


< 41 / 159 >

この作品をシェア

pagetop